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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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  ♪ たった一言 なのに 
  
 サビに入り航の声が重なると、木立を抜ける風に乗って、二人の声が更に響きを増した。道行く人の止まった足が、【木立】の奥へと惹き付けられて行く。
  
  ♪ 言えない一言 胸の奥に
    ……ずっと……
  
 初歌を歌い終わり、しばしの沈黙に閉じていた目を二人してそっと開ける。“どうか、何人かいますように……”でも“どうか、誰も聴いてませんように……”。複雑な思いで開けた瞳に、
“パチパチパチ!!”
 複数の拍手の音と共に、数名の姿が映った。十人は超えているその人数に、二人揃ってペコリと頭を下げる。一斉に向けられる視線が怖くて、とても目を合わせられない。それでも、『前、向いてようぜ!』の言葉通り、顔を上げる。
「ありがとうございます!」
 震える声を精一杯張り上げて、慎太郎が話し出す。
「僕ら、今日、初めて……」
 目が泳いでいるのが自分でもわかる。心臓の鼓動がそのまま頭の中でこだまして、自分が何を言っているのかよく分からない。とりあえず次の曲のタイトルを告げると、間髪入れずに航の演奏が始まり、慎太郎が慌ててその後を追った。

  
 何をどう歌ったのか分からぬ内に、最後の曲が終わり、深々と頭を下げる。視界の端に隣にいる航の頭が同じ様に下げられているのが映った。
 終わった安堵感からか、少し周りが見えてくる。ギャラリーの数は、最初の倍になっていた。驚いて隣を見ると、まん丸の瞳を更にまん丸にした航が、ゴクリと唾を飲み込んだ所だった。声を掛けようとして、ふと、気が付く。ギャラリーが動かない。
 どうしたものかと航の方を振り返ろうとした途端。
「『Graduation』! 歌って!!」
 聞き覚えのある声が響いた。
  ――――――――――――
 隣にいる筈の慎太郎の声が、どこか遠くで聞こえているようだった。所々で聞こえてくる曲のタイトルに反応して、ギターを弾くのが精一杯だった。目に映る人の山が怖くて、手元を見ているフリをして目を閉じる。ギターの音と慎太郎の声だけに集中していた。響いてくる慎太郎の声が震えている。慎太郎も“怖い”のだと思うと、少しだけ安心した。
 やがて、慎太郎の口から最後の曲名が告げられ、無我夢中で演奏。やっと終わって、お辞儀をして、恐る恐る目を開ける。
 目の前に立ち並ぶ、顔・顔・顔……。一瞬身体が強張り、乾ききった口の中、ゴクリと唾を飲み込んだ。こっちを見ている人の山は、終わりを告げた筈なのに誰一人動こうとはしない。真っ白な頭の中、遠くで“ズキン”と鳴った気がして隣にいる慎太郎に手だけを伸ばす。それを遮るように、
「『Graduation』! 歌って!!」
 聞き覚えのある声が響いた。
  ――――――――――――
 二人揃ってキョロキョロと辺りを見回す。あの声は、きっと木綿花だ。見ると、ギャラリーも声の主を探してキョロキョロしている。二人が戸惑っていると、
“パチパチ”
 一人……。
“パチパチパチ”
 また、一人……。拍手が広がっていった。
「……これって……」
「歌えって……?」
 思わず顔を見合わせる二人。航が、慎太郎を見て微笑む。
「……大丈夫か?」
 慎太郎の問いに頷くと、頭を振ってカウントを取り始める航。慎太郎が慌ててギターを構えた。
  
  ♪ 振り返れば いつも 教室(そこ)に……
  
 今までコーラスを務めていた航の澄んだ声が、高く木立に響いていく。てっきり、慎太郎が歌うと思っていたギャラリーが、その声に息を呑む。
  
  ♪ 君と過ごした日々は かけがえのない宝物
  
 季節が違うからという理由でリストから外したものの、さんざん練習した歌だけにハモリは完璧だ。そして、
  
  ♪ 季節がいくつ 過ぎ去っても
  
 フレーズの一部分だけに携わっていた慎太郎の低い声が重なり、今までの曲とは逆のハーモニーが静かに響く。
  
  ♪ ボクら 学校(ここ)を離れても……
  
 歌詞と季節は合わないかもしれないが、航の声とこの曲とこの木立は絶妙だった。
  
  ♪ 咲き誇るピンクの花を見上げ
    ボクらは ひとつ 大人になる
  
 重なりながら消える二人の声に少し遅れて、二人のギターの音が同じ様に消えていった。
 一瞬の沈黙の後、さっきよりも大きな拍手が二人を包む。
「ありがとうございました!!」
 深々と頭を下げ、ようやく散り始めた人だかりを並んだままジッと見詰める。二十人を越える人が、輪の外側から散っていく。人影の中から、先程の声の主を探そうとするがままならない。そうこうしている内に、ギャラリーがいなくなった。
「……ふー……」
 航が放心状態で息をつく。
「……帰る?……」
 慎太郎の言葉に黙って頷く航。
 言葉も視線も交わすこと無く黙々と片付けを終え、同時にギターケースを持ち歩き出した。

  
 黙ったまま、公園を抜け、交差点を渡り、乗車券を買い、丁度到着した電車に乗る。夕方……にはまだ少し早い時間。人もまばらで、開いている席に並んで腰掛ける。
「……仰山、聴いてくれてたな……」
 航が目を閉じて呟いた。
「そうだな……」
 ついさっきの事なのに、まるで夢の中の事のようだ。
「……楽しかったな……」
 航の口元が少し緩む。
「うん……」
 緊張の糸が切れたのだろうか? 航の頭が、そのまま慎太郎の肩にコツンと寄り掛かった。
「着いたら起こしてやるよ」
 肩に預けられた頭に“ぽふっ”と手を置いて慎太郎が笑う。
 木漏れ日の中の出来事を思い返す。
 殆ど目を閉じたままで歌っていたから詳細は暗闇だが、所々、曲の合間のトークもどきの時だけは、目を開けていた。最初、十人ちょっとだった人数が、少しずつ増えていった。心なしか、航のギターの音が震えていた。自分も震えていたから笑えない。でも、帰ったら笑ってやろう、と思う。
 が、どの曲も、出だしは声も震えていたのを思い出す。
(……こりゃ、ギターの事、笑えねーな……)
 どんなに震えていても、航のギターに集中すると不思議と落ち着いた。航の声が重なると一人じゃない事に安心した。
 曲が終わる度、ギャラリーの表情が優しくなっているのを見て嬉しかった。
 帰ったら、航に言いたい事がいっぱいある。
 まずは、「ありがとう」……。
『次は……』
 車内アナウンスが、降車の駅名を告げた。飛び出しそうな欠伸を噛み殺して、隣の航を見る。スゥスゥと聞こえてくる寝息。起きる気配はない。
「航。着いたぞ」
 肩をクン! と上げて、その上の頭を刺激する。……起きない……。しようがねーな、と頭を小突く。
「航!」
 爆睡……。
「起・き・ろ!」
 身体を揺さぶった途端、
“ガタン……”
 航の身体が座席の上に転び、ギターケースが肩から滑り落ちた。
「航!?」
 ピクリとも反応せず、車両の揺れに航の身体が座席から落ちそうになる。
「航!? ……航!!」
 ――― 車両が、ホームへと到着した。