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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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「いや、こっちが先で、次にこれの方がメリハリ良くね?」
 イントロ部分を二人して口ずさみながら額を付き合わせる。
「……そーやなー……。ほんで、これ?」
「うん。そんな感じ」
 “うんうん”と頷く航に頷き返す慎太郎。そんな二人を見て、
「楽しそうねー。……私も行こうかな……」
 慎太郎母が呟く。が、
「来んなっ!!」
 激しく慎太郎が否定する。
「あら、どうして?」
「恥かしいからに決まってんじゃん!!」
 怒る慎太郎を見て、母の視線が航に移動する。が、
「おばさん、堪忍な」
 またもや、拒否。パタンと両手を合わせて航曰く。
「知らん人達の中におばさんが居ったら恥かしいし、見てるのがおばさん一人でも恥かしいし……」
 広い公園でやる事の難しさを実感しつつある言葉に、慎太郎母が息を付いた。
「そっか……。じゃ、我慢するわ」
「その内慣れたら、こっそり見に来て下さい」
 “ホンマにごめんなさい”と航が頭を下げる。
「“慣れたら”“こっそり”だぞ!」
 慎太郎に念を押され、慎太郎母が笑って頷いた。
  

 そして、いよいよ当日がやって来た。朝食を済ませると同時に、慎太郎は“堀越宅”へと向かった。
 行き成り、早朝からやるのではなく、午前中は最終練習をして午後からやろうという事になったからだ。勿論、小田嶋氏の助言もあった。
『朝一からだと、確かに人は少ないからやりやすいけれど、実力を知りたいのであれば、人が集まる午後からの方がお勧めかな』
 どうしたもんだろう? と考える慎太郎に、
「どれだけの人が聴いてくれるのか、知りたい」
 と航。
「それで人が集まらへんかったら、次の日は朝からでええさかい」
 “な!”と懇願。ライブに関しての決定権はほぼ航にあるだけに、仕方なく慎太郎が頷いた。
「航ちゃん。お昼ごはんはどうするの?」
 途中、様子を見に来た航の祖母が心配そうに声を掛けてきた。
「途中でコンビニ、かな?」
 航に振られ、慎太郎が頷くと、
「ダメよ。ちゃんと食べなくちゃいけませんよ」
 と、少し早めの昼食を準備してくれたので、祖父母と一緒に昼食を済ませてから“堀越宅”を後にする事となった。
  

 ギターケースを抱え、二人揃ってバスと電車を乗り継ぐ。公園が近付くにつれ、段々少なくなっていく口数。
 昼過ぎの公園は、連休中という事もあって大勢の人で賑わっていた。いつもはOLの姿が目立つ広場にも、今日は親子連れが多い。親子連れが多いという事は、逆に【吟遊の木立】には人は少ないかもしれない……。何の根拠も無い期待を胸に、公園の奥の【木立】へと向かう。
 ようやく辿り着いた【吟遊の木立】。普段と変わらない平均年齢の人ごみ。しかし、先程までの思いも叶わず、その人数は二・三割増しというところだ。点在するストリート・ミュージシャンの周りを各々のファンが取り囲み、その周りを興味を持った人達が囲む。
「心臓、吐きそうや……」
 【木立】に足を踏み入れた途端、航の足が止まった。
「大丈夫か?」
 “ムリなら、やめてもいいぞ”と慎太郎が顔を強張らせて言う。
「やる!」
 大きく息を吸い込み、吐き出すと同時に一歩前へ踏み出す航。緩やかに流れる人波を奥へと二人で進んで行く。小さな人工の小川に架かる橋を渡り、オープンテラス風の休息所を抜けると、低い植え込みと高い木が二本並んでいるのが目に入る。初心者御用達のスペースである。
「……先客、居てるやん……」
 休息所を抜けてすぐ、その場所で演奏するミュージシャンの姿が見え、何だか出鼻を挫かれたようで、航が溜息をついた。
「いいじゃん。ちょっと落ち着いてから出来るって思えば」
「珍しいな。前向きやん」
 驚きつつも、休息所のベンチを指差して航が言う。
「そうか?」
「いつもやったら、絶対に“やめようぜ、めんどくさい”って言うもん」
 ベンチにギターを置き、航が手振り付きで深呼吸。
「それすら頭に思い浮かばねーよ……」
 と、途中で買ったペットボトルの水を飲む慎太郎。
「俺よりテンパってんのとちゃう?」
 笑う航の顔が引き攣っているのを確認し、
「トントンだろ」
 慎太郎が、水をまた一口。
 そうして、二人で向こうのミュージシャンを見詰める。観客は五人。演奏は三人。大学生……いや、専門学校生だろうか。エレキギターだが、こてこてのロックではなく、“ロック調”と言ったところだ。アンプやらなにやら一荷物だったろうな……と思いつつ、耳を傾ける。下手ではないが、上手いとも言えない。メインボーカルのハスキーな声が、緊張で震えているのが分かる。
「……あ……」
「外した」
 緊張のし過ぎだろうか、所々で音が外れる。一曲終わって、観客が一人減った。
「シビアやなぁ……」
「“耳が肥えてる”って言ってたもんな」
 何時間後かの自分達を見ているようで、思わず苦笑い。そして、
「小田嶋さんって、何十人もギャラリー居たよな……」
「凄いねんなー……」
 と改めて尊敬したりする。
 そして、次の曲が終わる頃、観客が又一人減った。演奏している三人の視線が、段々下に下りてくる。心なしか、身体も半分後ろ向きだ。
「……分かるわ……」
 見詰めていた航が眉をひそめる。
 まだ、歌っている途中だ。やめる訳にはいかない。かと言って、ギャラリーの顔もまともに見れない。自分達の音が時々外れてしまうのは、自分達が一番気付いているから。
「俺達は、前、向いてようぜ!」
 三人を見詰める航の肩を慎太郎がポンと叩いた。
「失敗しても、後ろは向かない。な?」
 ちょっぴり引き攣った慎太郎の笑顔に、
「うん!」
 航が頷く。
 同時に、残った観客の拍手がパチパチと響き、
『ありがとうございました』
 の声がひっくり返りながら聞こえた。
 揃ってそっちを見る。機材を片付けているミュージシャン。こちらに戻ってくる観客。思わず、戻ってくる人達から視線を外してしまう慎太郎と航。
「俺等、小心者やな……」
 視線を反らしながら呟く航の言葉に、慎太郎が頷きながら、辺りを窺う。
「次、俺等?」
「みたいだぜ。誰もいない」
 三人組のミュージシャンがその場を去った後、コソコソとその場につく。
「犯罪者みたいやん」
 囁く航に、
「“小心者”だもんよ」
 慎太郎が囁き返し、二人揃って、ギターを取り出した。
 ストラップを肩に掛け、先に準備の出来た航がチューニングを兼ねて曲を爪弾き出す。インストオンリーの静かな曲。航の姉の好きなあの曲だ。航の耳にも慎太郎の耳にも一番残っているこの曲を弾きながら、音の確認をする。やがて、慎太郎の音色も加わり、深みを増した曲が木立に響き渡って行く。ちゃんと調律出来ているかに集中する為、二人とも目を閉じたままその音に神経を傾ける。
 フルで弾くと五分以上ある曲を弾き終え、休む事なく次の曲のイントロへと流れる様に繋げ、目を閉じたまま、慎太郎が歌いだした。

  ♪ 隣にいた筈の……
  
 原曲よりテンポを落とした事により導入がスムーズに行われた上に、慎太郎の声は木立に実に心地よく響く。
  
  ♪ 帰り道 ふざけながら 並んで歩く
  
 ひとり、又ひとり……。小道を歩く人が足を止める。二人は目を閉じたままだ。