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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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「弾けるけど、歌は……勘弁……」
 観客から笑いが漏れた。
「……という事ですので、最後は曲だけで我慢して下さい。折角だから、最後の曲は四人で……」
(四人?)
 観客と同時に慎太郎と航も首を傾げる。まだ他にもメンバーがいるのか、と。
「おいで!」
 小田嶋氏が手招きする。
「え?」
「俺等?」
 キョロキョロと辺りを見回した後、自分達を指差す二人に、
「そうだよ」
 と小田嶋氏。
 二人の前の人垣が十戒のごとく左右に分かれた。これは、行かないと怒られそうだ。杖を突く航をかばう様に慎太郎がそっと手を伸ばしながら、前へと進む。
「僕等の弟分です。ちょっと一人がケガをしてまして、長時間は出来ないので一曲だけ」
 その言葉に拍手が返る。
「あの……俺等……」
 航が不安気に口を開くが、
「大丈夫。“秋桜の丘”だから」
 小声で囁いた小田嶋氏がウインク。そして、
「1(ワン)・2(ツー)……」
 高橋氏のカウントで演奏が始まった。
 高橋氏に先導されて、航と慎太郎の音色が重なっていく。やがて、それに小田嶋氏のブルースハープが加わり曲は深みを増したまま、観客を包み込む。びっくりした“ドキドキ”も緊張も、先導するギターの音と後押ししてくれるブルースハープの音に圧倒されて、いつの間にか観客さえ見えないくらいに集中する。気付けば小田嶋氏のライブは終わっていて、観客さえいなくて……。
「大丈夫かい?」
 クスクスと笑う高橋氏と航にやっと慎太郎が我に返った時には、既に歩道脇のベンチだったりした。
「航くんは笑えないだろ?」
 小田嶋氏に言われて航がペロリと舌を出す。実は航もついさっき夢見心地から戻って来たばかりなのだ。
「お前も笑い過ぎだよ!」
 クスクスと笑い続けている高橋氏に小田嶋氏がゲンコを振り上げた。
「いやぁ。慎太郎くんのこんな顔、初めて見たよ」
 “バイトじゃてきぱき動く子だったからね”と高橋氏がクスクスと笑っている。
「強引に引き込んじゃったからな……。悪かったね」
 謝る小田嶋氏に、
「“悪い”だなんて、そんな……」
「楽しかったです!」
 と慎太郎と航が揃って手をパタパタと振った。
「君達がちゃんと復帰出来たのが嬉しくてね」
「勝手に“弟分”だもんな」
 小田嶋氏をからかう様に、高橋氏が笑う。
「今日は、午後からは?」
「三曲だけって約束やから……」
「焦らないで、少しずつ慣らしていこうって」
 慎太郎の言葉に両氏が頷いた。
「じゃ……」
 小田嶋氏が首からブルースハープを外し、
「そうだな……」
 高橋氏も同じ様に外すと、小田嶋氏は航へ高橋氏は慎太郎へ、それをそれぞれの首へ掛け替えた。
「あの……」
「これ……」
「僕達からの“復帰祝い”だよ」
「ありがたく受け取れ!」
 慎太郎と航が顔を見合わせ、
「「ありがとうございます!」」
 揃って頭を下げた。
「……ブルースハープや……」
「凄ぇ……」
 首から下げたスタンドにちょこんと乗っている小さなハーモニカ。

 秋の陽射しがスタンドと本体に反射して、ストリートライブに戻って来た二人の顔を照らしていた。