小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

INDEX|24ページ/46ページ|

次のページ前のページ
 

「やっぱな……」
 と頷く慎太郎が、
「実は木綿花に頼んで、コード付きの歌詞、コピーしてある」
 “どうだ!”とばかりに親指を立て、
「シンタロ、グッジョブ!!」
 航が親指を立て返した。
 帰ったら、レパートリーが増える事になりそうである。

  
「お待たせ!」
 ギターを肩に掛けて航が出て来た時、慎太郎は携帯通話中だった。
「……おう。じゃ!」
 航の姿を見て携帯を閉じる慎太郎。
「誰?」
「木綿花」
 航の速度に合わせて歩きながら、慎太郎が携帯を少し上にあげる。
「お前の病院に付いてったじゃん? “どうだった?”ってさ」
「……どうもなにも……」
 “変わりなしやん”と航が少しむくれたようにトン! と杖をついた。そんな航の頭に手を置いて、
「お前とギターやるって言ったら、夕方に“いいもの”持って来るって」
 慎太郎が笑いかける。
「夕方? “いいもの”?」
 今来ればいいのに……と航。
「部活中なんだよ、あいつ。で、帰ったら来るって」
「“いいもの”は?」
「そんなの、俺が分かる訳ないじゃん!」
 それもそうか。と二人で笑う。
 ――― そんなこんなで、飯島家。先日木綿花から貰ったコピーをテーブルに置いて、航が弾き始める。
 結構なアップテンポのナンバー。最初は少しゆっくり……。二回目は……。
♪♪♪♪♪
 原曲通りのスピードで弾く航に、慎太郎が目を丸くしている。
「早い曲やから、きっついわー……」
 一通り弾き終わって航が笑った。
「お前、“きつい”って……。ちゃんと弾けてるじゃん」
 その笑顔に呆れる慎太郎。
「んな事あらへんよ。二ヶ所くらい間違うてるもん」
「あ、そっ」
 “それすらも気付かなかった”と顔をしかめながら、慎太郎も挑戦。
「……これってさ……」
 の筈が、早速、混乱。
「こないだ歌番組で聴いただけだけど、メロディーがふたつあったじゃん?」
 ストリートライブから出て来たデュオの新曲。主旋律とハモリ……なのだろうが、歌詞が違うのだ。分かりやすく言うと、二曲を同時に歌っているかのような曲だった。サビでは同じ歌詞でハーモニーになるのだが、それまでは別の歌詞、別のメロディーなのである。
「俺、どっち?」
「あー……」
 歌詞カードに目を落として航がそのひとつを指し示す。
「こっち、かな?」
「こっちって……“黒”の方?」
「違う、“銀”の方」
 このデュオ、二人ともメガネを着用しているのだ。ひとりが“黒縁”もうひとりが“銀縁”。航も慎太郎も各々の名前が分からないから、メガネの色で区別を付けている。
「こっちの方がメインやったし、メロディーがシンタロの声と合うてるから」
 航の言葉に頷く慎太郎。それじゃ! と弾き始めた。
「……で。……と。……よっ。……せぃ……」
 コード毎に何かしら一言出る。
「……クスクス……」
 それを聞きながら、航が笑いを噛締めていると、
「笑ってんじゃねーよ!」
 慎太郎がコードを押さえながら航を睨んだ。
「そやかて、シンタロ、祖父ちゃんみたいやねんもん」
 家で何かをする時の祖父の掛け声みたいだと航が笑う。
「悪かったな。年寄り臭くて!!」
 口をへの字に結んで慎太郎が作業を続けていく。
「……コードは一緒なんだな……」
 一回通して、二回目に入り、慎太郎が気付いた。
「うん。メロディーが違うから錯覚するけど、こことここ以外おんなじ。でないと、綺麗に聴こえへん」
 そう言いながら、感心したように何度も頷く。
「よく考え付くよな……」
「ホンマやな……」
 ……そして、数分後。
「よし。なんとか大丈夫!」
 慎太郎がようやくOKを出した。
「ほな、二人で通そ♪」
 各々で弾いていたギター。とりあえず、一度、二人でやってみる。
 航がギターの表面をトントンと叩いてカウントを取り、本来のスピードより少しゆっくり目に弾き始めるのだった。
  

「ここは、同時やのうて……」
「あー。俺が一拍遅いんだ……」
 歌詞カードを見ながら額をつき合わせて、かれこれ二時間近く経過しているにも関わらず、まだしっくりこない。
「歌詞カードとコードだけやと……」
「キツイもんがあるな……」
 一昨日一回聴いただけの曲なのだ。いくら歌詞があってもどうにもならない。
「CDっていつ発売だっけ?」
「今度の水曜日」
 航の言葉に慎太郎が指を折る。
「……後……四日か……」
「それまではコードだけでも練習しとこ。すぐに歌う訳やな……い……」
 航の言葉が尻すぼみに消えた。そう。いくら練習したところで、発表の場はないのだ。誰かに聴かせるといっても、せいぜい家族か木綿花である。
 自分の言った言葉に航が“ハァーッ”と溜息をついた。
「ちゃんと出来るようになったら、木綿花に聴かせてやろうぜ」
 項垂れる航の頭にポンと手を置いて、慎太郎が言う。
「うん。そやな……」
「とりあえず、ギターだけだけど……。もう一回通してみる?」
「出来んの?」
 航が意地悪そうに笑い、
「どの口が言ってんだ!?」
 慎太郎が航の頬を掴んで左右に引っ張った。
「いひゃい! いひゃい!」
 “もう!”と慎太郎の手を引き剥がすと、そのまま頬を両手でさする。
「お前は一言多いんだよ!」
 慎太郎の“ざまあみろ”的なセリフ。
「弾け……」
 言い返そうとして、再び上がってくるその手に、
“トン、トン”
 とギターを叩いてカウントを取る航が、そのまま弾き始める。
「ちょっ! 卑怯だぞ!!」
 慎太郎が慌てて後を追う。
 うろ覚えのメロディーを頭の中で追いながら、互いの音に耳を傾ける。航について行くのがやっとの慎太郎。だが、それを見て航が微笑んだ。始めた頃は、“はい、C……はい、D……”だった慎太郎の技術。それが今や二時間の練習で……やっととは言え……弾けているのだ。たったの半年間で、大した進歩である。
  
  ♪ジャカジャン
  
 弾き終わると同時に、
「すっごーいっ!!」
 リビングの端に手を叩く木綿花の姿があった。
「また勝手に入ってきやがって!」
 怒る慎太郎に、
「一応、チャイムは鳴らしたのよ。でも、誰も返事しないし、鍵はかかってないし、中からギターが聴こえてくるし」
 言いながら、木綿花が並んでいる二人の前に座る。
「でも、ちゃんと出来てたよね。ギターの音だけなのは残念だけど……」
「歌詞だけあったって、一回しか聴いてない歌を歌うのはムリだよ」
 “なっ!”と慎太郎と航。
「だから、“いいもの”持ってくるって言ったじゃない」
 顔を見合す二人に、木綿花がバッグから可愛い袋を取り出した。
「何、それ?」
 “いいもの”に興味津々の航が覗き込む。
「ジャーン!!」
 小さな袋から出て来たのは、薄い12×14センチくらいのプラスチックケース。
「CD?」
 指差す航。
「DVDよ」
 そう言って、木綿花がそれを慎太郎に渡した。
「一昨日の“ミュージック・ナイト”を録画してあるの」
 “ミュージック・ナイト”。毎週木曜日に放映されている由緒正しき音楽番組である。一昨日というと、慎太郎と航も見ていた。……そう、今の曲を演奏している“メガネデュオ・アンサー”が出ていた“それ”である。