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天秦甘栗  夢路遠路4

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 河之内の夢は果てしなく大きく巨大なものである。いつか、秦海グループをも脅かす存在になりたい……そんな夢である。しかし、この夢を実現するには、秦海個人にちょっかいを出しているぐらいでは話にもならない。
「…接待は、うまくいった…週末は畑の世話をして……戻ったら、新しいプロジェクトの進行を視察して……これが、うまくいったら……」
 もう、河之内は姑息な手段を考えている暇が惜しい。もっともっと、己の夢に貪欲になってしまった。だからといって、仕事だけをしゃかりきにやるのはやめた。人間、息抜きは必要である。河之内の夢を越えるのは高いハードルを乗り越えなければならない。その夢を越えたら、河之内は別の夢を見る。それは今のとはまったく違う、もっと大きくて手強いものだろう。

 河之内のフレンディが天宮家に到着すると、ちょうど天宮が秦海家に戻るのと出くわした。
「天宮さん、おかえりですか。」
「うん……もう、帰らんとレースに間に合わんから…あんたの畑のときなしちゃん(にんじん)、食べたよ。」
「どうぞどうぞ……私は明日までおりますが、ご用はありませんか?」
 河之内の問い掛けに天宮はしばし考えた。別段、河之内に頼むようなことはない。家の管理は深町の責任で、自分がとやかく言う必要がないからである。
「別に……ああ、そうそう明日の朝、えりどんを魚市場まで連れて言ったってくれる? 新鮮な魚食べたいらしいから…んじゃね。」
 それだけ伝えると天宮は愛車ぱーちゃんのエンジンをかけて走り出した。 それを見送ると、河之内は深町に挨拶をするため、玄関をあけようとした。しかし、鍵をかけていて入れないのがわかったので、諦めていつものように自分の車に戻って、ランタンの火をつけて、ミニガスバナーで湯を沸かしてコーヒーを飲んだ。
「あーほっとする……そうそう、よと虫を退治しなくては…」
 ゆっくりとコーヒーを飲み終えて、『新・懲りない男』となった河之内は懐中電灯を片手に畑に降りて行った。

作品名:天秦甘栗  夢路遠路4 作家名:篠義