分岐点 (後編)
救急隊員によって竜輝は処置台に寝かされ、救急車が動き出す。
その振動で竜輝が再び目を開いた。
そして、乾いた口をゆっくり動かす。
「…かーちゃん、とーちゃん…。」
久しぶりに聞いた竜輝の声。くぐもった声。
竜輝の手を握り締めた。
「竜輝、かーちゃんここにおるよ!」
竜輝の声を聞いたのは何日ぶりだろうか…!
目頭がまた熱くなる。
「かーちゃん…あのねぇ…。」
竜輝が風邪をひいた時のような、かすれた声で話し始めた。
「あのねぇ、ケーキ…」
「ケーキ?」
救急車のサイレンが鳴り響く。
「ケーキ…、チョコレートのやつがいいなぁ…」
そう言うと目を細めた。
竜輝の記憶は、きっとあの日のままなのだ。
私の涙が止まらなくなった。視界がぼやけて、竜輝の笑顔もはっきり見えない。
「うん、うん、クリスマスはチョコレートのケーキね。かーちゃんと約束ね。」
―ケーキくらいいくらでも用意してあげる。
―でも、お願いだから、もう二度と、かーちゃんの前からいなくならないで…!
―かーちゃんとの約束よ…!
小さな竜輝の手を強めに握った。