分岐点 (後編)
夫・啓一視点
平凡だけれど、幸せな日々。
仕事を終えれば、灯りのともった我が家。妻と子どもたちの笑い声。
なのに…。
いつからこんな事になったのか。
竜輝とはあの日の朝、ミニカーのことで怒ってしまった。
こんなことになるんなら、ミニカーくらい許してやれば良かった。
思い浮かぶのは、竜輝の笑顔、泣き顔。
そして、後悔ばかり。
瑞樹には、後悔してもしょうがない、今どうするべきか考えろなんて偉そうなことを言ってしまった。しかし本当は、一番後悔ばかりしているのは自分だ。
嫌でも思い浮かぶ、最悪な状況。夢にまで出てくる。日に日に想像がリアルになっていく。
毎日毎日不安に押し潰されそうになり、何度も逃げ出したい衝動に駈られた。
しかし、瑞樹と千恵の顔を見るたび、足を踏ん張った。
特に妻の瑞樹が不安に潰されないよう、できるだけ冷静に行動した。
折れそうな心を奮い起たせてきた。
そんな気力も限界に近くなってきた頃だった…。
傷だらけの妻。
竜輝の大事な長靴とミニカー。
現実に頭がついていかない。
瑞樹、竜輝…。身の回りで何が起きてるんだ。
冷静になれ、啓一。