始まりの朝
「…恵助。……その…するの?」
「しないよ。…今は、しない」
「…なんで?」
「ちゃんと、大切にしたいから。まずは、デートでもしようか」
“ちゃんと、大切にしたい”。
その言葉が、すごく嬉しかった。
慈しむように頭を撫でられて、子供っぽいとは思ったけれど、涙が零れた。
「どうした!?なにか気に障るようなこと言ったか?」
「ううん、違うんだ。まさか恵助と恋人になれるなんて、思ってなかったから
すごく嬉しくて…」
言葉を紡いでいる間も涙が止まらなくて、
宥めるように何度も優しく頭を撫でられて、また涙が出た。
「まいったな。幸助に泣かれるとどうして良いか分からなくなる」
と、少し困ったように笑いながら、幸助が泣き止むまで、抱きしめてくれた。
「幸助、これから初デートに行こう。って言っても買い物にいくだけだけどな」
「うん。あ、そうだ。恵助、俺映画のチケット2枚持ってる」
「じゃあ、これから映画見に行くか」
「うん!」
きっと、これから色々なことがあるだろう。
いつかは家族に話さなければいけないのだ。
反対されるだろうし、もしかしたら俺達の大切な
「幸せな家族」が壊れてしまうかもしれない。
喧嘩だってするかもしれない。
でも、どんなことがあっても、この手を離す気はない。
恵助と“2人”で幸せになりたいから。
きっと、“2人”なら大丈夫。
晴れ渡る空を見上げ、幸助は密かに笑った。