分岐点 （中編）
千恵がゆっくりと啓一の手に渡る。
空気を察して、千恵の瞳が徐々にうるみ始める。丸い目がもっとまん丸になる。
―千恵…
啓一が千恵を抱き直し、再度、坂木さんにあいさつをした。
病院の入り口のほうへと向かう啓一。
背中越しに千恵がこちらをじっと見ている。
「…かーちゃん…」
小さな声を耳にした途端、自分でも考えられないくらいの素早さで、啓一の背中を追いかけた。
「杉川さん！！」
背後で声が響く。
啓一が驚いて振り向いた瞬間に、千恵ごと抱きついた。
「…お願い、千恵を守って！目を離さないで！」
啓一の耳元で、祈りをこめて囁いた。
坂木さんと看護師によって両腕をつかまれ、啓一たちから引き離される。
ずるずると引きずられながら奥の部屋へと連れ込まれる。
啓一の姿が見えなくなるまで、じっと視線を合わせ続けた。
―お願いよ、啓一。千恵を守って…！
―竜輝、千恵…
無理矢理に意識を奪われていく。