分岐点 (中編)
私はできるだけ冷静な頭で考えた。
確実な証拠もないのに、長靴が見つかっただけで、あんなに雅也君を問い詰めて…。
「…本当にすみません…。雅也君を強く問い詰めてしまって。私…何の手がかりもなくて、どうしたらいいのかわからなくて…。」
頭はモヤがかかった感じだった。
肝心な部分が隠されているような気分。
坂木さんはじっと聞いてくれている。
「坂木さんの庭に長靴があるのを見つけたんです。それで雅也君が何か知ってるんじゃないかって…どんどんきつい言い方になっていってしまって…。」
声が震える。
「本当にごめんなさい…いつも遊んでくれてる雅也君にあんなにひどい言い方してしまって…雅也君を傷つけてしまったんじゃ…。」
―そうよ、私はひどいことをしてしまったんだわ
坂木さんは笑顔で淡々と返事をする。
「いいのよ、私もつい…。さ、横になって。」
「いえ、私、のんびりはしてられないので。」
立ち上がろうとするが、さっきから足にうまく力が入らない。
坂木さんがあわてて支える。
「ほら、疲れがたまってるから。貧血ね、きっと」
ベッドへ促され、横になる。
―貧血?…どうして、こんなにぼんやりするのだろう
「こんな状態だし、杉川さんの旦那さんには連絡をしてあるから。処置室で申し訳ないんだけど、今日はここで一晩休んで下さいね。」
「えっ、いや、でも…。」
「全然寝てないんでしょう。夫に薬を御願いしたから、大丈夫よ。」
いつ準備したのか、坂木さんの手には小さな注射用のシリンジが握られている。
「…ま、待って、何っ!」
抵抗する間もなく、その体力もなく、腕を握られた。
「…!!」
容赦なく無言で右腕に筋肉注射をされた。
―もしかして、さっき気を失ったのは、何か薬を打たれたから…?
―何で、何で、こんなところにいる場合じゃ…
意志とは関係なく、意識が手放されていく。