分岐点 (前編)
リビングのソファーに横になると、そのそばに啓一が腰をおろした。
無言で私の手を握ってきた。
そういえば、竜輝は寝る時に、必ず私の左手を触りながら眠りにつくのを思い出した。
何も言葉を発しない啓一は、変わらず私の手を握り続ける。
―珍しいな
手を握る啓一に、最初は私の不安をやわらげようとしてくれたのだと思った。
しかし、それだけではないのにすぐ気がついた。
無口な啓一の手に力がこめられる。
きっと、啓一も不安で押しつぶされそうなのだ。
視線を合わすことはなかったが、その心細さは痛いほど伝わってきた。
自分だけじゃない。
その手の暖かさを感じながら目を閉じた。