自転車と淡い初恋
「雅司君、ありがとうね」
「おう」
泉は自転車から降りて、ぺこっと頭を下げた。
背中の温かみがなくなり、かなり寂しく感じてしまう。
「泉っ!お前、友達の所に行くって言ってたけど、ま、まさか雅司のことだったのか!?」
「えっ??ち、違うよ??帰り道に会って、送ってもらったんだよ」
俺は翔の慌てっぷりに、ぷっと吹き出してしまった。
「な、なんだよ、雅司っ!笑ってんじゃねぇ!」
「いや、必死だな…と思って」
「必死じゃねぇよっ!じゃあな、泉っ、雅司っ!お、俺は帰るぞっ!」
そう言うと翔は、顔を真っ赤にしなが家の中へ駆け込んでいった。
「ははっ!じゃ、またな!」
俺は自転車にまたがり、ペダルをこごうとした時、呼び止められた。
「雅司君っ」
「?」
振り返ると、泉が小走りでそばまで駆け寄ってきた。
「あのね、雅司君…」
「なんだ?早く帰らねえと、また翔のヤツが怒るぞ?」
「あ、あのね…」
泉が肩をすくめながら、大きな瞳で見つめてくる。
俺はハンドルをギュッと握りしめ、泉の言葉を待った。
あらぬ期待もしてしまった。
「あの、また自転車の後ろに乗せてもらえる?」
「そんなこと…、構わねえけど」
何を言われるのかと、構えていただけに、泉の言葉に拍子抜けした。
俺の気持ちを知るわけもなく、泉はほっとしたように、目を細めた。
「良かった~、緊張しちゃった…」
「は?」
「断られたらどうしようかと…」
「なんだそりゃ。断るくらいなら最初からチャリに乗せてねえよ」
「そっか、ありがとう!」
満面の笑み。この笑顔のためなら、何だってしてやるよ。
「じゃ、またな」
瑞樹の頭をくしゃっとなでた。
途端に瑞樹の顔が真っ赤になる。