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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編2

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 「三神君もブランで立派にやってるようで……」
 市原は先ほど一瞬だけ見せた不可解な表情を消して、それから言った。
 「ただ、ブランという会社は数字ばっかりなんですよね。数字数字、売り上げ売り上げ……だからクリエイターに優しくないんですよ」
 「16CCはクリエイターに優しいと?」
 大井弘子は相手の内面の動きを見定めるようにして低い声で言った。
 「ええ、まあ……うちは、社長が倉田って言いまして、本人が楽曲を作っていますから、クリエイターの気持は分かるんですよ」
 市原は説明をしてくれたが、丸山花世は思っている。
 ――クリエイターだからって……売り上げは大事じゃねーのか? 金なきゃ現場、回らんだろうに。
 「それにうちは、何度も言いますがNRTというグループの一員ですから。金銭的に親会社のバックアップがありますから、ですから大丈夫なんですよ」
 「……バックアップと言っても、慈善事業ではないのでしょう」
 大井弘子は目を閉じて言った。
 「……まあ、そうですが、ですが、大丈夫ですよ」
 大丈夫。市原は大井弘子に言ったものなのか。それとも自分に言い聞かせるために言ったのか? 言った本人の表情はひどくぼんやりとしている。
 そして。市原は不意に話題を変える意味もあったのか、おかしなことを言い始める。 
 「知ってますか? 三神君、前立腺に病気持ってるんですよ。何やってるんですかね、ははは……」
 「……」
 奇妙な笑みを浮かべるエグゼクティブ・プロデューサーに大井弘子は冷ややかな視線を送り、丸山花世は露骨に嫌な顔を作って応酬する。
 「他人の病歴なんかどーでもいいだろ」
 「……」
 「他人の病歴なんかどうでもいーっつーの。仕事できりゃ」
 丸山花世の怒気をはらんだ物言いに市原は再び口を閉ざした。そしてその一言で生意気な小娘は全てを理解したのだ。
 ――こいつ、三神のにーちゃんが嫌いなのか。
 どうでも良い場面でどうでもいいことでかつての部下を貶める。普通の感性ではあるまい。あるいは、そこまで昔の部下を憎んでいるのか。
 ――こちらも我慢がならないし、あちらも我慢がならない、か……。
 丸山花世の眼差しは暗い。
 ――ただ愉快に作品作ってっていうことにならないのは……なんでなのかな。