Drawing ♯0
1
まっしろ。
景色も、吐く息も、指先も、まっしろ。
小さな町の小さな公園に、ちいさな子どもがふたり。
男の子は真っ白な雪に、小枝で線を引く。
何を描いているのかはわからない。ただただ、楽しそうに、何かを描いている。
傍らに、同じ年頃の女の子がいる。
何を話しているのかはわからない。ただただ、楽しそうに、何かを話している。
真っ白な景色の中に、ふたりの頬だけが林檎のように赤く染まっている。
ふと、女の子が立ち上がり、駆けていく。雪を跳ね除け、まだ短い手足をばたばたと振り回して大急ぎで駆けていく。
男の子はその後ろ姿を見送り、また絵を描く。
ほどなくして、女の子が手提げカバンを持って戻ってきた。
男の子はにこにこしている。
女の子はカバンの中から、いくつものチューブを取り出す。
水彩絵の具だ。
ふたりは顔を見合わせて、満面の笑みで、チューブを片っ端から開けていく。
あか。
きいろ。
みどり。
そらいろ。
ちゃいろ。
うすべにいろ。
そして真っ白な雪のキャンバスに、指先で色をつけていく。
光の乱反射を、色彩がやわらげる。
眩しくて白い雪の上に、みるみる季節がよみがえる。
春の街の、黒髪の少女。
夏の海の、眩しかった少年。
秋のベンチの、老人と犬。
そして
そこで目が覚めた。
作品名:Drawing ♯0 作家名:松下要