養護教諭 安芸原素子
序
春はきらいじゃない。新しい出会いに期待しているわけではないけど、惰性に流
れた付きあいを清算するいい機会。養護教諭なんて仕事に就いたのも一人になれる
時と場所を手に入れたかったから。
それなのに前の学校はひどかった。授業をさぼりたいだけの生徒達に、できの悪い
サラリーマンみたいな教師達。おかげで手間がかかったのなんのって。今度の学校
では、教師たちも、うるさい生徒たちも、保健室のことなんか忘れて自分らで好き
にやっててくれたらいいのに。
スラックスとTシャツの上に白衣をはおって、開けはなった窓から桜の花びらが
舞いこむままにして、デスクワークにいそしむのがこの季節の楽しみ。
でも、静かな時は望んだほど永くはもたなかった。ノックもせずに部屋に飛びこ
んできたごっつい男子生徒のせいだ。
作品名:養護教諭 安芸原素子 作家名:JIN