神社奇譚 1-2 古井戸
町の名士たる役員達が見守る中
根っこに火が点けられ燃えてゆく。
なんとも名残惜しそうに見ている男達の前で。
根っこは絡めた白い足をねじらせて
まるで股間を広げるように開かれていった。
そこには子宮の入り口のようなものがあり
同時に女の泣くような、か細い音がして。
いや、それは樹木が焼ける音には相違なく。
しかし、どうみても女がそのときに達するときにあげるような
声のように聞こえて。
女体のような根っこは燃え尽き、灰に戻った。
それから一年を過ぎ、件のことなど皆、忘れてしまったが。
齢70を超える氏子会会長の息子に子供が生まれて
初宮参りの儀式を執り行った。
会長としては初孫でもあり、喜ばしい事この上ないことではある。
その女の子の名は樹(いつき)と名付けられた。
そのとき数名の役員が「なるほどな」と意味深な笑いを浮かべた。
作品名:神社奇譚 1-2 古井戸 作家名:平岩隆