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真冬の海

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 この感情を殺意と呼ぶのなら、ずいぶん幼い頃から抱いていたような気がする。

 それは真冬の海のように渦巻き、打ち寄せる。
 白波に複雑な模様を描き、細かな泡沫になる。
 少しずつ砂を浚い、引いていく。
 私の足元の砂は削り取られ、バランスを崩す。
 息が止まるほどに、冷たい。

 わたしはそこから目を離せないでいる。自分の感情が現れては消えていくのを傍観している。
 刻一刻と表情を変えることに戸惑い、そしてその純粋さに引き付けられたまま動けない。
 白波立つ荒れ狂う海は、どうしようもない程に透き通っている。
 砂や岩や、海の生き物の死骸を底に抱いて、それでもなお。
 
 今まさに、長年抱いていたこの感情が消え失せようとしている。
 解放される。
 わたしは、何もせずにただここで見ていればいい。

 「さようなら」 

 呟いたわたしの目から、涙がはらはらと落ちる。
 この涙の意味を、わたしは理解できないでいる。


作品名:真冬の海 作家名:松下要