真冬の海
1
この感情を殺意と呼ぶのなら、ずいぶん幼い頃から抱いていたような気がする。
それは真冬の海のように渦巻き、打ち寄せる。
白波に複雑な模様を描き、細かな泡沫になる。
少しずつ砂を浚い、引いていく。
私の足元の砂は削り取られ、バランスを崩す。
息が止まるほどに、冷たい。
わたしはそこから目を離せないでいる。自分の感情が現れては消えていくのを傍観している。
刻一刻と表情を変えることに戸惑い、そしてその純粋さに引き付けられたまま動けない。
白波立つ荒れ狂う海は、どうしようもない程に透き通っている。
砂や岩や、海の生き物の死骸を底に抱いて、それでもなお。
今まさに、長年抱いていたこの感情が消え失せようとしている。
解放される。
わたしは、何もせずにただここで見ていればいい。
「さようなら」
呟いたわたしの目から、涙がはらはらと落ちる。
この涙の意味を、わたしは理解できないでいる。