シュミット博士のそれ
あの事件というのは、先ごろカリフォルニアのみならず全米をも揺るがせたスキャンダルだった。
以前より、なぜかボグザロックに通う小学生達の顔が、みな似ているという噂があった。
その疑念を晴らそうとした人達が子供達のDNAを検査したところ、なんと・・・
全員、その父親はシュミット博士だったのだ!
当然、大騒ぎになり、シュミット博士は法廷に立たされた。
しかし、倫理的な問題は残るものの、精子の条件に違法性はなく、
慰謝料が一部認められただけだった。
その為シュミット博士は厳重注意のみで釈放されたのだった。
「だからって、もうこの産婦人科には行きたくないって思うのが当然よねー」
ケイトはコーラを飲みながら、他人事のように語った。
「じゃあ、あなたは何でここにいるのよ?」
私が懐疑的に尋ねると・・・。
「それは、おそらくあんたと同じ。もう彼は不正ができない。でしょ?」
ケイトはグーサインを出して診察室に入って行った。
そう、おそらくシュミット博士はもう不正はできない。
それは、病院再開にあたって当局とかわした約束事でもあったのだから・・・。
でも・・・。
「次の方どうぞ」
看護士に呼ばれて私はハッと我に返った。
「やあ、よくいらっしゃいました。ハッハッハ・・・」
陽気に笑いながら対応したシュミット博士は、とても五十代後半とは思えない若々しさで、
いまだギラギラと性欲の衰えがない感じの男だった。
もしかして、彼は異常な繁殖欲を持つ男なのかもしれない。
ふいに不安になった私は、ひとつ念を押しておくことにした。
「お分かりかと思いますが、私は先生の精子は望んでいません。もし子供のDNAが先生のそれと一致した時には、迷わず訴えますから、そのつもりでいて下さいね」
私はピシリと言った。
不快にさせただろうか・・・
と、思ったが意外にもこれは、シュミット博士や看護士に大受けだった。
「ハッハッハ、大丈夫、大丈夫。そんな事、絶対しないから」
シュミット博士は腹を抱えながら、ひとしきり笑うと、
「君はさっきのケイトさんとは違うんだ。いくら僕でも自分の娘に孫を産んでくれなんて言わないよ」
そう言ってウインクした。
(おしまい)
作品名:シュミット博士のそれ 作家名:おやまのポンポコリン