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扉のむこうの、あなたは、だあれ?

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前編


 隣じゃまた転校生の自己紹介が続いている。サイジョウヒデキぃ?どっかで聞い
たような名前。音楽が好き...ふ〜ん。あ、やっぱり足代にからまれた。
「菊池百恵ちゃんとヴァン=へイレン以外は認めん!」
だと。んなコトより美術部の勧誘しろよ…。

足代が前の学校じゃ顔に似合わずアイドル研究会に入ってたってのは話したっけ?
こいつが前の学校にいた時の事だ。
もちろんそんな軽薄な集まりに部費も部室も与えられず、足代たちは近くの空き地
にある使わなくなったプレハブ小屋の2階をねじろにしていたらしい。お決まりの
桃子ちゃんの歌の大合唱と、マージャン大会も佳境にはいったある日曜日の夕刻。
雀牌をかき回す音でそこにいた全員、耳が遠くなりそうだというのに、足代だけが
何かを聞き入るようなしぐさをしていた。

「ん?どしたぁ」
「…ああ、なんか今扉をノックする音、しなかったか?」
「やば!先公かよ?」
足代のとりまき連中がどよめいた。
「ば〜か、先生ならノックなんかしないで怒鳴り込んでくるだろ。ちょっとお前、
見てこいよ」
「うえっ、俺がかよ」
指事された小太りなのが悪態をついた。とは言えマージャンの負けが込んでいるの
を見すかされた上での御指名である。二つある扉の片方に、小太りは及び腰で近付
いていった。

――いつの間にか、誰も音を立てなくなっていた。

「―お化け、かもな。」
「なっっ!? ばばっばか言うなよ! それよか足代、また喧嘩でもして狙われてん
じゃねーのかヨ?」
悪党は一人でニタニタしている。
「かもな」
「ちくしょーっ、開けるぞお、1、2、3、ダアーっっ!」

ギギッ。キイイイイ・・・

 軋むような音をたててスチール製の扉は開いた。恐る恐る小太りが外を見回す。
部屋はプレハブの2階、出れば非常階段しかない。辺りは陽が落ちた空き地に薄闇
が覆いかぶさって…

…誰も、いない。

「は、ははは。やっぱ誰もいねえジャン。足代〜お前耳か頭、医者に診てもらった
ほうがいーんじゃねえかぁ?」
卓を囲んでいた他の二人もやれやれとでも言いたげな顔をする。足代の…表情は、
変わらなかった。
はあっと、小太りが息を吐き出した、その時。

(…とん。)

 今度は全員が聞いた。さっきとは反対の、もう一枚の扉を、小さく、でも確かに
叩く音を…!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・とん、・・・とん。

 吐き出した息を引っ込めるかのように、小太りが「ひょっっ」とおかしな悲鳴を
上げた。

ガシャアッ!

突然の大音響。
「うああああーっ!」
今度こそ大絶叫だ。何のことはない、やせぎすの、「いかにも」なアイドル好きが
雀卓をひっくり返してしまっただけだ。つられて奥に座っていた天然パーマ系は叫
び声をあげる。静かな日曜の夕方の社交場は一瞬にして阿鼻叫喚轟く修羅場とあい
なった。
取り乱していないのは足代だけだった。焚き付けたのが自分だということもあるん
だろうが、非常事態には慣れっこらしい。それとも超にぶちんなのか?

腕まくりし、スタスタとその扉に近付いた。周囲の動揺した様子を歯牙にもかけず、
「こっちは中からしか開けられねえよ、鍵、付いてんもん。」
ガチャガチャ鍵を鳴らしながら言った。それから扉に向かって声をかける。
「誰か居んのかぁ?」
…返事は、なかった。
(何かが居る気配はする。)
試しにこちらから1つ、ノックする足代。すると。

 ・・・とん・・・。

 ちゃんとノック1つで返したって言うんだ…。


                               ・・・続く。