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天秦甘栗 悪辣非道2

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 天宮は、楽しそうに意地悪く微笑した。もう誰も天宮を止められない。気をつけようと秦海は心でそう誓った。天宮の復讐はとても恐ろしいことを、秦海はよく知っている。それも深町や本妻さんと組めば、さらにパワーアップしてしまうことも。
 その夜、秦海は居間で夜なべをしていた。天宮のブラウスのボタンをせっせとつけていたのだ。隣で執事の井上が「もう十分でしょう、あとはわたくしが」と言うのを秦海はきっちりと断った。
「いや、これは天宮が俺の愛情を試しているんだ。ちゃんと自分でやる」
 なんてりっぱな心がけだろうと、井上はかくれて目元を押さえた。何度も針で手をつきながら、秦海は6コのボタンを全部つけた。きっと、この苦労を天宮も分かってくれるだろうと思っている秦海である。
 翌朝、朝食の席で天宮にブラウスを返した。横目でチラッと見て「下手くそ」と言った。
「天宮様、渉様は一生懸命されたのですよ。その言葉はあんまりです」
 井上が、すかさずフォローにまわる。確かに、いい出来とは言い難い。
「ボタンもちゃんとつけられないの? 私だってそれくらいは出来るのに-、ただ、つければいいってもんじゃないでしょ。ボタンを通した糸を最後に、くるくるっとまとめないとボタン穴に通らないの!」
 正しいボタンのつけ方の講釈をしてから天宮は「やり直し」とブラウスを、秦海に放りなげた。
「天宮、やっぱり昨日のこと怒ってるだろう」
 ぼそりと秦海はつぶやいた。これでは嫁イビリである。
「怒ってないよー」
 ニヤニヤと天宮はパンを食べている。本当に怒っていないらしい。そういうわけで、秦海はボタン付けだけはうまくなった。
もし、河之内が秦海によけいなことを告げなかったら天宮は、3日で忘れてしまっただろう。その場でやられた分はきっちり返しているのだから(やりすぎともいう)記憶には残らない。それを天宮は専守防衛といい、秦海は過剰防衛と呼ぶ。
作品名:天秦甘栗 悪辣非道2 作家名:篠義