オリーブの枝
それに気づいた瞬間再び景色が変わった。
交差点の真ん中に彼女が座っている。しかし誰も彼女に気づかず、通り過ぎてしまっている。
ねぇ今日何の日だか知ってる?へぇー、関数はこうやって解くんだ。僕のお父さんは早くに死んじゃったんだ。お母さんの声が早く聞きたい。はじめまして、私美桜っていうの。僕電車が好きだから、将来車掌さんになりたいなぁ。もうお母さんも元気になったから、ここ出るんだ。うわぁ、穂乃香ちゃん胸大きいね。へぇ雫ちゃん、養子に行っちゃうんだ。新しいお母さん、すごく若くて超びっくり。高校進学しないと、追い出されるらしいよ。でも、いいよなお前頭良いから私立行くんだろ。大学のお金払うから、バイトしなきゃ。この施設の出身者の3割はヤクザになってるんだって。面接で施設卒園者と言ったら、引かれた。
いろいろな人のいろいろな話がよく聞こえてくるが、彼女は1人でずっと座っていた。ずっと1人で……。
空を見上げる。どんなに落ち込んで鬱々とした気分でも、空は青い。憎たらしいくらいに青い。ふざけてるの?空は大きすぎる。それに比べて自分は小さすぎる。空が落ちてきたら、どうなるんだろう。今でも、あのとき見た空は青いの?
そんなことを考えていても、人は通り過ぎていく。何人も何人も通り過ぎていく。彼女に見向きもせずに。彼女は、アッカンベーをした。