ともだちのしるし
美術室に入ると、先ずは文句を言ってみた。それくらいは言ってもいいだろうと思った。だけど、その答えは意外だった。
「んん? なにが?」
「なにが? って、私があんな目に遭ってたのに、先に行っちゃうんだもん」
「あんな目って? あたしは、美術室に美胡が来ないから呼びに行こうとしたんだけど……、なんかあったの?」
あの状況を気付かなかったの? そんな事より、その"あんな目"を話すのが先か。
「なにそれ、そんな事あったの? 全然気付かなかったよ」
愛華ちゃんと、美術準備室の隅に置かれたダンボールの中から、飾るのに良さそうな作品を選んでいく。一枚の絵を手に取って品定めをする。
「あんなに思い切りタックルされて廊下に倒れたのに、気付いてくれないなんて」
その絵を仕舞って、隣の絵を取り出した。
「ごめんごめん」
絶対そう思ってない言い方だ。
「美胡っち、まな。部活見学に来た新入生が、入部したくなるような作品を選んでくれよ。飾り方もひと工夫して目を引くようにな」
「部長、入部したくなるような作品ってどんなのですか?」
「それは、まなのセンスに任せる」
「そんなキッパリと言われてもなー」
親指を立ててウインクしている部長を一瞥して、作業に戻る。
「だけど、いきなり抱きついて初対面の先輩に友達になって、だよ? 普通言わないよ、そんなの」
「んー、まあねぇ。でもさ、嫌われるより好かれるならその方が良いじゃん。お、いい感じ」
愛華ちゃんは、選んだ作品を棚に置き、親指と人差し指で写真のフレームを作ってその画を切りとった。
「それは……、そうかも知れないけど」
「いいんじゃない? なっても。おっ、これもいいねぇ」
「え?」
「だからさ、友達になってもいいんじゃない? 今までにないタイプで面白そうじゃん」
「ええー!?」
確かに今までに会った事はないけど、できれば会いたくはないタイプ。人の事を一切気にも留めず、グイグイと自分を押し付けてくるのはちょっと苦手だ。それに、私は近所のお姉さんじゃないし、幼馴染でもない。あくまで先輩後輩の関係なんだから、友達とは違うと思う。あの時はびっくりしてあんな行動取っちゃって、それはいけなかったな、とは思うけど……。次に会ったら……って、できれば会いたくはないけど、次に会ったら、友達にはなれないと伝えよう。