Please tell me.
好きかもしれない、でもただの憧れかもしれない。
僕に彼女の心を推し量ることはできない。
「さっきも、先生が私を避けてるみたいで……それがなんだか嫌な感じで、何でこんな風に思うのか分からなくて」
それでもやっぱり、好きな人に好きだと言われることはとても嬉しいことだと、改めて感じた。
たどたどしく言葉を紡ぐ彼女は、初めて見たときよりも大人びていて、それでいてまだ幼い子どものようだ。
「『分からないことを、分からないままにしちゃいけない』って先生が言ってたじゃないですか……だから」
私に恋愛を教えてください、彼女は静かに、けれども強く呟いた。
抱きしめてあげたくて、触れたくて、どうしようもないくらいに彼女のことが好きだ。
「僕は、恋愛は苦手科目なんだけど、それでもいいの?」
精一杯の照れ隠しで答えた。
「大丈夫です、先生は教えるのが上手でしょ?」
それから、結局僕は塾講師のバイトを辞めた。
たとえ想いが叶っても、いや叶ったからこそ、僕は塾にい続けるという選択肢は取れなかった。やはり、けじめは必要なのだ。
塾長はただ「そうですか」と呟いたきり何も言わなかった。もしかしたら塾長はこうなるとでも察していたのかもしれない。
そして、彼女も来年は受験を控えているというのに塾を止めてしまった。だが、それでも僕たちの関係は続いていたし、彼女の勉強も続いていた。
僕は彼女の恋人として、そして
「先生、ここがいまいち分かりません」
「ここは、最初の解を代入して――」
家庭教師として。
勉強と恋愛を教えるのが彼女との約束だ。
END
作品名:Please tell me. 作家名:硝子匣