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生きている人死んだ人

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死んでしまった人に会うにはどうしたらいいのか。
そんなことばかりを考えながら生きて、もう五年経つ。
五年間、悩んで思考して思案して、それでもまだ答えは見つからない。
彼女のことは、すぐに思い出せる。
彼女の髪は黒かった。
彼女の髪はまっすぐだった。
彼女の瞳は大きかった。
彼女の肌は白かった。
彼女の唇はふっくらとしていた。
彼女の声は少しだけ低かった。
彼女は背が高かった。
彼女は高い声で笑わなかった。
彼女はあまり表情を変えなかった。
すぐに、思い出せる。
目を閉じればいつだって、瞼の裏に彼女の姿はあった。実物と、寸分違わぬ姿で張り付いていた。
背景はない。
黒、或いは白をバックに、彼女は直立してこちらを見ている。
感情のない瞳でこちらを見ている。
目を瞑ったまま、彼女に向かって手を伸ばす。彼女の姿は未だ鮮やかにそこにあるというのに、指が掴むのは彼女の髪でも、頬でも、腕でも、服でもなく、空ばかりだ。
目を開く。
目を開けば彼女の姿はたちまちに消えてしまう。
目を閉じればあんなにリアルに、胸だってゆっくりと上下しているのが見て取れるのに、
それでも彼女は、そこにはいない。
今でも、全てをつぶさに思い出せる。
彼女は平坦に喋った。
彼女はどんなに悲しい物語を読んでも、どんなに悲しい映画を観ても瞳すら潤ませなかった。
彼女は古本屋や図書館の本に触れることを嫌った。
彼女は時計の音が嫌いだった。
彼女はミルクティーとチョコレートを好んだ。
彼女は眠れない夜に羊ではなく畳の目を数えた。だから彼女はよく、目の下にくまを作っていた。
彼女は僕をヒイラギ君と呼んだ。柊と書いてシュウと読むのだが、僕の周囲にいる人間は大抵、僕をヒイラギと呼んだ。僕は本名のシュウよりも、ヒイラギという愛称の方が好きになった。すんなりと読めない自分の名前を好きになったのは、彼女が僕の名を呼ぶようになってからだ。
目を閉じる。
そこに彼女はいつだっている。
怒ってもいなければ笑ってもいない。泣いていないし困っていない。手を伸ばせばいつだって触れられる距離にいたあの頃と少しも変わらない無表情でそこに在る。
だから、そう。
彼女がこちらを睨んでいるように思えるのは。
僕の心に疚しさがあるからなのだ。
きっと。



作品名:生きている人死んだ人 作家名:ラック