失われたポン菓子を求めて
涙が零れ落ちそうになったのを必死でこらえた。まだだ、まだ早い。手に取り、レジで会計を済ますまでは安心できない。先ほどは二軒連続で、ほんのわずかの差でそれを手にすることができなかったのだ。私は棚に駆け寄った。四本セットで百円。がさがさと四本掴んでレジに運んだ。チョコレートと併せて、税込み 315円だった。袋はいかがなさいますか、と聞かれたが、有料だというので断り、買ったものを板チョコ一枚を残してメッセンジャーバッグの中に入れた。
とうとう、手に入れたのだ。店員さんがやや引きつり気味にありがとうございました、と言ったのはわかっていたけれど、そんなことが気になりもしなかった。一応チョコレートの銀紙を破くのを店外に出るまで我慢するぐらいの理性だけは、なんとか残していた。
栄養補給に板チョコを齧りながら、どうしようもなく満ち足りた思いで、私は家路を歩いた。なんでもない板チョコが、ひどく甘美に感じられたのは、きっと今のこの思いのためだろう。
すべては、このためにあったのだ。のべ何キロになるかわからない吹雪の中の行軍も、強盗との対決も、なにもかも。私がポン菓子を手にするに足りる人間であるかどうかを、試すための試練だったのかもしれない。そんなことを試してくるような存在に心当たりはないけれども。ともかく、私は勝利したのだ。何に勝ったのかは自分でもよくわからないが。
明日の休み時間、ポン菓子を口にすることを夢想して、どうしようもなく幸せな気持ちを噛み締めながら、私は自宅のドアを開けた。
作品名:失われたポン菓子を求めて 作家名:なつきすい