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なつきすい
なつきすい
novelistID. 23066
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閉じられた世界の片隅から(2)

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「それを理由に連中はカラクラさんのところに押しかけて、この街をヴァルナムへの進軍ルートと訓練地に使わせろと言って来た。当然、カラクラさんは断ったよ。多少荒っぽい手に出ようとした奴らもいたようだが、タクラハの爺に一掃されたそうだ。ここまでは、二十年前の戦争のときと同じだよ。だけど、あの時と、連中の質の悪さは違うらしい。あの頃は軍のエリート仕官にこの街出身の娘もいてある程度は抑制できてたようだしな。今回は違う。逆らうならヴァルナムの魔族と同じことだと、この街を敵国と見なして宣戦布告してきやがった」
 僕は耳を疑いはしなかった。あの連中ならやりかねないとの思いが、どこかにあったからだった。
 そしてもうひとつ、ばーちゃんはある事実を街の人たちには伏せているはずだ。多分今回も、フィズとレミゥちゃんの引渡しを要求して来たに違いない。そして、レミゥちゃんを隠し通し、フィズの行方がわからないことを話したのだろう。正直、この街を攻め落としたところで何の利益もなく、放っておいても何の害もないはずだ。なんの資源的価値もなく、地理的にも恵まれているとはいえない。だからこそ、かつてこの街はスラムと呼ばれていたのだから。
 あいつらがこの街を攻める理由があるとすれば、見せしめか、さもなければ八つ当たりだ。
 フィズの顔色は真っ青だった。これこそ、フィズが恐れていることだった。
「期限は、五日後。それまでに降伏するか、交渉を飲まなければ、連中はこの街に総攻撃をかける。カラクラさんは俺たちには荷物を纏めて街から逃げ出せって指示を出した。俺は此処に流れ着くまでは少し行商をやってた時期がある。俺が先に行って様子を見ながら、引越しに同意した連中を連れて、国境を越えるよ」
「ばーちゃんたちは、どうしていますか」
「街の連中に指示を出しながら、あの家でお前らが帰ってくるのを待ってる。お前らがいないことにはどうするべきかの作戦の立てようもないからな。だから、さっさと帰れ」
 僕は頷いた。フィズも青い顔で、僅かに震えながらも、小さく頷く。
 僕たちは斜面を駆け降りて、家へ向かった。
 ばーちゃん、じーちゃん、スー、レミゥちゃん。どんな思いで僕らを待っているだろうか。
 そして、僕らが帰ってきたのなら、どんな作戦を提示するつもりなのだろうか。
 疲れからか、少し遅れたフィズの手を取った。此処で手を離したら、またフィズが消えてしまうような、そんな気がして。
「急ごう」
「ん、わかった」
 僕らは走る。家へ向かって。もう冬の気配がすっかり消え去った、乾いた道を。
 願わくばそこに待つものが、希望であってくれますように。
 夏の訪れを告げる虫の声が遠く遠く聞こえた。
 夏が暑い理由が戦いの火が燃え滾るからであるのというのなら、そんな季節が来ることなんて、僕らは望んでいないのに。