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なつきすい
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novelistID. 23066
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Another Tommorow

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 変わる。ちょっとしたきっかけで将来の夢も。
 予知が単純に外れたことは未だないけれど、それがひとつ何かを変えることでいとも容易く変わるものだということも知っている。そしてそのひとつが変わると、それに連なって他の未来も変わっていく。例えば、渋滞を予知して、それを回避した結果として別のところで交通事故に遭わないとも限らない。
 だから、未来のことはわからない。飛鳥はそう思う。万能でもなんでもない。
 だけど、それでいい。変わらないものがただわかるだけの力なんていらない。そんな人生なら、ただ与えられる一冊の小説を読んでいるようなものだろう。
「せめて、ゲームブックであってほしいよね」
 誰も居ない部屋で、飛鳥はふと呟いた。たとえ最後の最後の結末が、誰にでも等しく訪れるものであったとしても。
「行程ぐらいは自分で選びたいじゃん」
 予知を否定したわけではないし、病院に就職したらこれまで以上に使うつもりだ。先に知ることで、救える命があるはずだから。もっと身近なことにも、今と同程度には使っていくだろう。例えば、傘を持っていくかどうか迷った朝だとか。それでも、傘を持っていったことで変わるすぐ先の未来がわかったとしても、その出来事がもっとずっと遠い未来をどう変えるのかを、飛鳥は知ることのないまま過ごしていくのだろう。
 でも、それでいい。
 何が待っているかなんて知らない。知らないからこそ面白い。それは、予知を積極的に使うことと飛鳥の中でなんら矛盾しない。
 未来はわからない。明日だってどうなるかなんてわからない。例えば、予知のために死の淵から救うことのできた患者が大量殺人犯になるかもしれない。だけど、それでも。
 わからないから、飛鳥に出来るのは今手の届くことをすることだけ。遠い未来のことなんてわかるはずもないから、一瞬先を、ただひとつしかない現在を、ひとつひとつ、後悔しないように紡いで、その先の未来を織り上げるだけ。
 きっとそれは、誰も皆、同じのはずだ。予知の力があってもなくても。
(たとえば、このままだと落ちるよって大和に教えたら、あいつどうするかな)
 意気消沈して本当に落ちてしまうか、それとも慌てて勉強量を増やして受かるか、増やしても力及ばず落ちるか。
 だけど、それすら、例えば別の予知、悪天候による電車の遅れを回避するためにタクシーに乗る。たったそれだけですべてが組み変わって、大和は現役で合格して見せるかもしれないのだ。だから、わからない。ひとの手の及ばないこと、たとえば明日、2月末の杉宮には珍しく雪が降ることは知っているし、それは変わらないだろうけれども。
「お弁当、何作ってやろうかな」
 飛鳥が、はっきりと明確に結果を予想して、やってあげられるのはそれぐらいだ。胃腸に負担がかからないだとか、ブドウ糖多めだとか、弟の好きなものだとか、周囲に匂いが広まってしまわないものだとか。結果を決めるのは大和自身にしかできないし、むしろ他の人が決められるのならばそれは裏口とか替え玉とかいう類のそれになってしまう。だけど、なるべく良いコンディションで送り出してやって、疲れて帰って来たところを温かく迎えてやることはできる。受験を終えて帰って来た弟に、手巻き寿司を食べさせてやろうと思ったけれど、どうもその日に限ってシメサバに中ってしまうらしく虫が抜けるまで七転八倒する姿が見えたので、いつもと違う店で買おうかなと考える。ただ、自分たちが買わなければ他の誰かが買ってしまうので、普通に買って火を通して食べようか。
 そんな、ささやかな、目の前にあることをこなして、手の届く範囲で決断を繰り返して、そうして時が経ち、やがて終わっていく。
 万能なんかじゃない。誰もきっと同じだ。
 だからこそ、いつそれが訪れても後悔しないように、生きるだけだ。この目と、手と、耳と、声の届く範囲の世界で。それが、できるだけ先であればいいとは思うけれども。
「さてと」
 本棚の中身を一通りダンボール箱に詰め終え、飛鳥は大きく伸びをした。
「大和ー、買い物行くけど、晩御飯何食べたい?」
「味噌煮込みうどん!」
 隣の部屋へと大きな声で呼びかけると、薄い壁越しに弟の声が返ってくる。「了解!」と返し、机の横にかけたエコバッグを手に取った。
 その中に、財布と定期券を放り込み、壁にかけてあった上着を羽織る。目を小さく閉じた。今日は、傘はいらない。 【完】
作品名:Another Tommorow 作家名:なつきすい