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なつきすい
なつきすい
novelistID. 23066
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Another Tommorow

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 しかし兵器にも軍事にもまるで興味のない飛鳥でさえわかる、これらに対する愛情。わざわざこんなところに板とガラスで棚を作り、飾りつけて。こういったもののどこが楽しいのかはまるでわからないし、歪んでいるような気はしなくもないし、間違いなく法に触れる行為なのだろうけれど。ただ、この洞窟にこれだけの立派な展示室を拵えてしまう、その熱意だけは伝わってくる。
「でも正直戦後直ぐに起きた大爆発とかハリファックスみたいなの覚悟してたから、いい意味で気ぃ抜けたよ」
 飛鳥が呟くと、大和が眉を顰めて言った。
「でも手前のはまだ普通に爆発しそうだ。さっさと逃げて通報しよう」
「ああ、わかってるよ」
 山や町がひとつ吹っ飛ぶほどの大爆発は起きなさそうにしろ、ひとつでも爆発すれば残っている火薬に引火して、少なくともこの洞窟の中にいては巻き込まれて死ぬことは間違いない。洞窟の壁が衝撃で崩落でもすれば、死者は出ないにしても大変な騒ぎになる。一応持ってきた水と消火器も、一体どういうメカニズムで爆発する仕組みなのかも、なんの物質が火薬として使われているのかもわからないので掛けることはなく、脱出しようとした、そのとき。
 がたん、と小さな衝撃がひとつ。どうしたんだろうと思うより先に、感覚が遠のいた。飛び込みの予知。それはほんの一瞬で、映像というよりも画像に近いほどだ。だけど。
「逃げろっ」
 叫ぶより先に、入り口の近くまできていた大和を、狭い出入り口から突き飛ばすような勢いで押し出した。それと同時に、出入り口がごどごどと重い音を立てて崩れ落ちる。外の光が、完全に絶えた。出口はもうない。岩盤の欠片が、両腕めがけて落ちてくる。右手はなんとかかわしたが左腕に思い切り命中して、嫌な音がした。多分、折れている。
『兄さん!?』
 弟の声が、くぐもって聞こえた。良かった、間に合ったらしい。
「大和聞こえるか! これから多分この辺り火事になる! 急いで警察と消防呼んでくれ、あと一応救急車も」
 腹の底から出せる限りの大声で飛鳥は叫んだ。聞こえているはずだ。出入り口を塞いだ岩が振動する。助けようとしているのがわかる、けれど。
「その石俺とお前二人がかりでも動かせない、だから早く行ってくれ、頼む!!」
 それは事実。飛鳥の見た予知では、本来ふたりでここに閉じ込められるはずだった。脱出できていないということは、多分これは人二人の手ではどうしようもない。
「でも」
「いいから! 俺は死にたくない!! お前だけなんだよ、助けてくれ、大和!」
 ここで大和が助けを呼びに行ってくれれば、まだ可能性はある。大和が自力で飛鳥を助けようとするなら、多分、待っているのは時間切れだ。下手をすれば大和も共倒れになるし、出入り口付近は危ない。
 出入り口の崩落の理由は、多分倒木だ。植林された後放棄された杉の木は倒れやすい。元々出入り口のあたりにも倒れた木が何本か転がっていた。音の感じからして、一本が倒れる際に近くにあった数本を巻き込み、それらが倒れる衝撃で脆くなっていた岩盤が崩れたのだろう。
 大和の気配が、まだすぐそこにある。もう一度、飛鳥が怒鳴ろうと大きく息を吸った瞬間、
「わかった。待ってて」
 そう言って、岩盤越しに聞こえる足音が、遠ざかっていった。
「ああ!」
 その吸った息を言葉に変えて。飛鳥は走っていったのだろう見えない弟の姿を送った。
 ここはもうすぐ火事になる。原因までは知らない。飛鳥が見たのは、煙が充満するこの洞窟。感じたのは、蒸し上げられるような暑さと、息苦しさ。先ほど見えた雷雲の落雷か、はたまたそれ以外の原因か、ともかく外の木々や枯れ草が燃えて、この洞窟は火に包まれた鍋のようになるのだろう。昔そんなようなアウトドア料理のシーンをテレビで見たのをふと思い出して、背筋が冷えた。蒸し焼きになるのも嫌だが、熱で展示してある爆弾が爆発して死ぬのだって嫌だ。
 だけど、少なくともこれで、飛鳥が祖父の家に逃げていた場合よりも早く火事は通報される。被害は少なくて済むのだろう。それは確実に救いだ。
 そして気がついた。どうして、予知が変わらなかったのか。どうして、こんな時間に起きる火事なのに自分は巻き込まれることになっていたのか。
「絶対に、俺はここに来る、ってことだったんだな」
 気づいた瞬間、何故か笑いがこみ上げてきた。山火事という推測に辿り付く事も、それを止めようとして結局火事に巻き込まれることも、すべて、予知に織り込み済みだったというのか。或いは、わかったところで見て見ぬ振りなんてできないから、変わりようがなかったのかもしれない。
 だけど、一番最近に見えた予知と、今の状況は違う。あの予知では大和とふたり閉じ込められるはずだった。だけど、今はここには自分ひとり。大和は携帯の通じるところまで走っていてくれているはずだ。それに予知の感覚ではこの左腕の痛みもなかった。未来は、いまも変わり続ける。
 結局死ぬとこまで織り込み済みなんて、そんなの絶対ありえない。絶対に、絶対に、
「俺は、生きてやる」
 洞窟さえ揺らす雷鳴を聞きながら、飛鳥は崩落しそうな入り口から少し離れ、じっと、それを待った。
 
作品名:Another Tommorow 作家名:なつきすい