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なつきすい
なつきすい
novelistID. 23066
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Another Tommorow

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「地震とか、土砂崩れとか、山火事とか。で、そう考えると、何を試しても予知が変わらなかったことも説明が付く。そういう大きい災害は、ほんのひとつの信号待ちで変わる交通事故とかと違って、俺ひとりじゃ防ぎようがないよな。知ってれば、逃げるぐらいはできるかもしれないけど。隕石落ちて人類滅亡とか言ったら、それこそ俺がどう足掻いたところでどうしようもないし」
 脳内で盛大にエアロスミスのあの曲が鳴り響く。勿論あんな伝説的な所業をたかが一介の大学生に過ぎない飛鳥にできるわけもない。超大国がプロフェッショナルと技術と莫大な金を投じても困難だからこそいかにもアメリカ映画的なド派手な物語として成立していたのだから。
 だけど、もう弱気にはならない。それこそ日本沈没か人類の歴史が終わるレベルの大災厄でもない限り、生き残る方法は、必ずあるはずだ。
「大和。なんでもいいから思いついたこと全部話して。俺も全部話すから。それでもいい考えが思いつかなかったら、さりげなくお父さんにも聞こう。俺ひとりの脳味噌だけじゃ、もうとっくにどん詰まりだ。だから、手伝ってくれ。俺ひとりだと多分無理だけど、大和が手伝ってくれたら、なんとかなる気がするんだ」
 もう絶望しない。不安はあるけれど、それでも大丈夫。
 心の奥底からかすかに聞こえる自分の悲鳴よりも、まわりの人たちの声のほうが、よほど力強いから。
 飛鳥は大和の顔をじっと見つめた。見慣れたはずの弟の顔が、とても力強く見えた。そしてその向こうの夜空に、一瞬だけ光が流れるのが見えた。
「あっ」
 思わず声を上げて、つい手を伸ばした。大和がきょとんとした顔でこちらを見て、そして何を思ったのか、伸ばした手を掴んだ。
「え?」
「気合を入れるための握手、じゃないのか?」
 大真面目にそう言う大和に、笑いがこみ上げてきて、そしてついにこらえきれずに噴出した。
「あっ、ははははっ、ははははっ、もうお前面白すぎるっ」
 思わずばしばしと大和の肩を叩いて、反動で肋骨がずきりと痛んだ。それでも笑いは止まらない。
「どうしたんだよ、兄さん?」
 大和のきょとんとした顔が、しかし次の飛鳥の言葉を受けて、笑い崩れた。
「いや、流れ星見つけて、つい手を伸ばしたらお前がそれ握手と勘違いするとか面白すぎてっ」
 一瞬その言葉の意味を反芻するように「流れ星」と呟いて、それから大和は急に前かがみになって笑い出した。
「流れ星取ろうとするとかっ……あははははっ、面白いのは俺より兄さんだろっ……」
 左手でばしばしと縁側をたたきながら、大和はこらえることもなく笑った。厚手の手袋をしているためか、その音は鈍かった。そして掴んだ手は、まだ繋がったままだ。
「あー、もう、小さい子みたい」
 笑いすぎて切れ切れに、大和がそんなことを言う。飛鳥はなんとなくむっとして、笑いを収めた。けれど手は未だ掴まれたままで、まだ肋骨が治っていない身体では無理やり振りほどくこともできない。
「兄貴に対して小さい子って随分な言い草だな」
「だって星を掴もうとするなんて、幼稚園児ぐらい…………ああ、だから兄さん子どもに好かれるんだ」
「絶対誉めてないよな、それ」
 飛鳥が憮然として言っても、大和は気にする様子もなく笑い続けた。ひとしきり笑うと、呼吸を整えてから、大和は言った。
「誉めてる。兄さんの性格は才能だよ。こんなに皆に好かれる人、そうそういない」
「誉められてる気がしない……」
「兄さんがどう取ってもいいけど、俺は誉めてる」
 そして、先ほど勘違いで握ったままの手を、ぎゅっと両手で強く握ってきた。
「絶対死なせない。兄さんが死んだら、俺は凄く悲しいし、皆も悲しむ」
 真っ直ぐに見据えられて、飛鳥はどこか気恥ずかしくて少し目を伏せた。けれど、その手をぎゅっと握り返した。
「……ありがとう。頼む」
 自分ひとりでは難しいことも、きっとできる。そう信じている。
 大和がいる。父がいる。友達もいる。ひとりじゃない。
 明日も明後日も、その次の日もきっと来る。今なら、そう信じることができる。
 飛鳥は腕に力を込めた。もうこの手が恐怖に震えることはない。この手ですべきなのは、生き残るために必要な何かを掴み取ることだ。
 もう一度、大和の背後に星が流れるのが見えた。飛鳥は笑って、できる限りの早口で、願いを口にした。
 言えたのは一回きり。だから、願いの三分の一だけを流れ星に託して、残りの三分の二はこの手で掴み取る。そんなことを柄にもなく星に誓って、飛鳥は口元を上げた。
作品名:Another Tommorow 作家名:なつきすい