最強の足跡
「セイヤ、手を出さないで!」
「邪魔をするなら仕方がない。」
原田は槍をレナに向けた。じっとにらみ合い、両者は動かない。セイヤはレナの後方に気を配りながらも木刀を構えてレナを援護できるように構える。
レナが動いた。
原田の射程圏に入る前に衝撃波を見舞う。
原田は横にそれながらも穂先でレナを捕らえに行く。
レナが射程圏に入る。
原田の槍をギリギリでかわし、振り切った剣は原田の腕をかすめる。
原田が後ろに下がるのを見越して衝撃波を見舞う。これはさばききれない。
原田を確かにとらえてレナの刃は原田を完全に追い詰めた。
勝負あり。レナの勝ちだが原田はレナの油断を見逃さない。
レナは肩を貫かれてしまう。
これは試合では無い、殺し合いである。
原田の二撃目にはレナの心臓を貫かんとした。
槍は弾かれた。セイヤである。
「関係無いやつを殺すな!」
セイヤは木刀で原田を猛襲した。
顔面にピシャリ、わき腹を打ち据え、足払いをかけ、全力で振り下ろす。原田は虫の息だ。
セイヤはとどめを刺さず、レナを病院に連れて行った。
「命に別状はありませんが、安静が必要です。」
医者の言葉でセイヤは胸をなで下ろした。
眠るレナを眺めながら、セイヤは、
『後で怒られるな…はぁ…』
ため息をつくと、いきなり
「怒らない。ありがとう。ごめんね。セイヤ。」
聞こえていたようだ。
「実戦は初めてだったか?実戦は相手を動けなくするまで勝負はつかない。死と隣合わせなんだ。」
セイヤはやや口調を強くしてレナを諭した。レナは黙って聞くばかりだ。
「とにかくケガをなんとかしよう。また仁商連が襲ってくるだろうから、離れていたほうがいいと思うけど?」
セイヤの考えは堅実だ。しかし
「やだ。ちゃんと私を守って。私を見くびらないでよね。片手でも強いんだから!」
レナの甘えをセイヤは拒否できなかった。
「仕方ない。そういえば君は…」
セイヤとレナの甘々な会話が始まった。今夜は長くなりそうだ。
「報告!ただいま、十番隊隊長の原田殿を回収し、病院に搬送!全治三週間とのことです!」仁商連の中ではとんでもない騒ぎだ。十番隊とは言え、隊長の強さは一般戦闘員にして二十人分の強さを誇る。
「原田を倒すということは、局長直属部隊に所属できるレベルだ。鈴木と藤堂を呼べ。この二人をぶつければ勝てるだろう。兵士は必ずつけろ。舐めてかかるな!」
土方の命令で即座にセイヤ討伐の師団が結成された。
一方、近藤は原田の見舞いに訪れていた。
「お前が戦ったのはセイヤ一人か?集団か?」
近藤の問いに対し、
「ターゲットは女をつれていた。女の方もできる。」
原田は答えた。これを聞きつけた近藤は急いで土方に電話をかけた。
「ターゲットは二人に変更だ。セイヤには強い女がついている。」
土方は落ち着いて答えた。
「鈴木と藤堂の二人に兵士をつけた。間違いないはずだ。」
この動きがあと1ヶ月早ければ確かに間違いはなかった。
鈴木、藤堂の二名はセイヤ達を探索するところから始めた。原田が倒れていたポイントから最寄りの街を探す。
原田の報告によれば、セイヤ達は必ず一番近い医者にいるはずだ。
もし、違ったらセイヤは士道にあるまじきヤツに違いない。そこでここ1ヶ月の間にケガをした女と付き添いのヤローが来なかったかを聞き出した。
「ああ、知ってるよ。入院してたんだ。なかなかカッコいい男がエスコートしてて…」
ボーイッシュな看護婦が頬を赤らめて話していたが、続きはよくわからない…もとい興味も無いので、さらにセイヤ達の足取りを追った。
セイヤは一言言えばレナも気づく。
「お二人様ご招待ね。」
二人は構えた。
「出てこいよ。じゃなきゃこっちから行くぞ。」
正面から二人現れた。藤堂と鈴木である。
「原田が世話になったな。だが、我々は原田のように弱くは無い。」
藤堂が凄みを利かす。
「そりゃあ、二人もいてヤツより弱けりゃ世話無いな。」
セイヤもなかなかに言う。戦いの火蓋が切られた。
レナが鈴木に切りかかる。
鈴木はさばいていくが押されている。
藤堂が助けに入る。
レナは藤堂を巻き込んでたたみかける。
鈴木、藤堂が距離を取った先にセイヤがいる。
セイヤは二人をガツンと叩いた。
膝をつく二人。
レナは原田との戦いを忘れない。追い討ちをかける。
鈴木、藤堂は完全に気絶した。
二人の快進撃はとどまることを知らない。まだまだよゆうを残している二人である。
「報告。藤堂、鈴木の二名が負傷。例の二人組みはやはり討ち取れません。」
仁商連に届いたのは不運な報告であった。
「近藤、隊長を三人負傷させるとは何事か?申し開きはあるのか?」
松平の耳にも入ったらしい。松平とは仁商連のスポンサーである。近藤は仁商連の最高責任者として咎められていた。
「私も二人と見くびっていたようです。しかし、谷、および井上を差し向けたので、今回は間違いありません。彼らは先の三人より数倍上ですから。」
近藤の説明で松平は引き下がるが、
「隊長クラスを倒す二人だ。慎重に行くべきではないのかね?」
松平の指摘は間違ってはいなかった。
「はい、お弁当。全部食べてね。」
満面の笑みでセイヤに弁当を押し付けるのはレナだ。
黒い塊をセイヤは頬張る。ひたすら苦い。
「どう?唐揚げの味は?」
『唐揚げだと?黒こげだからなにがなんなのかわからないじゃないか。レナ…いつか覚えてろよな…』
「うん。ヤッパリ鶏肉は唐揚げが一番だよね☆」
セイヤは苦笑いでコメントした。
「これは豚肉だよ?セイヤ??」
やってしまった…
「このフライはいいね。サクサクしててさ☆」
「それ、漬け物だよ?セイヤ??」
これはヤバい。
「おーー、このビーフシチューは素晴らしいよ。レナ☆」
「そ・れ・は・お味噌汁!」
その後、セイヤがどうなったかは筆舌が困難である。
『筆者は絶対に理不尽だと思う。かわいそうなセイヤだ。』
筆者のパソコンがフリーズしてしまった。
さて、のどかな二人が向かう先は、チボーン地方である。チボーン地方は特に地名が存在しない。魔法の研究が進んでいる地方だ。セイヤ、レナの二人は魔法を少し習うことにした。
覇気を炎に変えたり、殺気を鋭い刃にしたりする。これらの加減具合では津波を引き起こしたりもできる。四天王の一人、チャッピーはこれらの技で世界最強の戦士の一角を担っていた。
セイヤ、レナの二人は講師の説明するままに次々と術を覚えて行く。かつてこのアカデミーではライ、アイラの二人が立ちより、いきなり禁術を発動してしまったという珍事件がある。この二人は今でも、この世界を作り出したライラの両親、最強夫婦として有名である。もともとは最凶夫婦だったが、現代では最強の文字になっている。
セイヤ達が術を習っているころ、谷と井上はチボーンに向かっていた。
「あの二人が確かにこのあたりを通ったのか。」
井上が不安げに言う。
「目撃情報は間違いない。このあたりだ。」
谷が自信ありげに言う。どちらも原田達に比べられば大分強い。これにセイヤは狙われている。
「チボーン魔術アカデミーにあの二人が入っていく姿を見たという情報がある。行くぞ、谷。」
井上が勇んでアカデミーに入る。
作品名:最強の足跡 作家名:peacementhol