魔法使いの夜
プロローグ
「魔法使いでもでてきそうだな」
真夜中、トイレに起きたぼくは縁側から外を見て思わずつぶやいた。
あたりの空気をぴーんとはりつめさせている青白い月。地面は白く光って、藍色の空に真っ黒な森や山がくっきりとうかびあがっている。こんな冷え冷えとした明るさにつつまれた夜の景色をぼくは初めて見た。
毎年ひと夏すごしているおばあちゃんの家だけど、冬はこんなにもちがってみえるなんて。山と田んぼばかりの小さな村は、海岸に近い土地柄のせいかあんまり雪がふらない。それがかえって冬の冷たさを増しているようで、ぼくには新鮮に思えた。
「今年はここで年越しか。二十一世紀を田舎でむかえるとはね。でも、病院で年を越すおとうさんよりずっといいか」
ぼくはまたふとんにもぐりこんだ。
単身赴任で九州にいるお父さんの急な入院で、お母さんがつきそいにいってしまい、ぼくは冬休みをおばあちゃんの家ですごすことになった。