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ACT18 Hunting High and Low

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Chapter 1


 サンヘドリン対ヴァリアンタス軍・第一特殊機動戦闘団第一次準備部隊シェーファーフント隊長であるグラム=ミラーズ大佐は悩むべき問題を抱えていた。
 一つはヴァリアントの事。
 前線で常にヴァリアントと接するうち、彼のヴァリアントに対する認識に変化が生じていた。“彼ら”は、無作為な破壊をもたらす無制御な大量破壊兵器ではない。そして、何等かの目的意識が有ると。
 リベカの、ネクロフィリアの腹を刔ったあの戦い以来、ヴァリアント達の活動は成りを潜めている。
 軍備の増強を行っているか、はたまた、我々の隙を狙っているのか。そのどちらかだと分析するのが自然だが、グラムは違った。
 グラムは、ヴァリアント、強いてはリベカが、悩んでいる様に感じていた。こんな事を誰かに言えば、『悩むのは人間だけだ』と一蹴されるのがオチだが、恐らく、情報軍団は違うだろうと、グラムは思う。
 情報軍は、独自にヴァリアントの“心理分析”を進めている。それは、ヴァリアンタスを一個の精神体と捉え、その行動原理を理解し、いずれは行動を予測する、と言う物である。
 ヴァリアンタスを精神体と捉えるのは、あながち荒唐無稽ではないとグラムは考えている。
 彼らは、人と話す。話す限り、こちらにも知る余地が有る。
 知るには、ふたたびデウス、そしてリベカに出て来て貰わなければ為らない。そして、戦わなければならない。
 出て来て貰い、銃火を交える。
 まるで許されない恋人同士の逢い引きの様だが、ヴァリアントは恋人ではない。敵である。
 しかし、この感情は何だろうか。再び会い、再び戦いたいという感情。
 闘争心ではない。
 戦いでしか相見える事の出来ない相手なら、戦いこそがお互いの間を繋ぐ糸であり、言語なのだ。
 だがこの感情は、決して言葉に出来ない。言葉にしては為らないのだ。
 言葉にすれば、サンヘドリンという対ヴァリアンタスシステムそのものが崩壊しかねない。この感情には、それ程の意味を持つのだ。
 そして、戦う為には武器が要る。
 対ヴァリアンタス戦闘組織であるサンヘドリンは、高度にシステム化された機甲軍であり、それを支えるのは他でも無くHMA、人型機動装甲だ。
 しかし最近、陸海空でC型ベース機の被害が増えている。尤も、数的に最も多く存在するC型は比率的にも被撃墜が高くなるが、近年の被害増加率は当初想定されていたキルレートを大きく下回っている。
 その対策のために開発されたのがF型であり、そして、h3だ。
 F型は、C型のレザーウルフをベースに、内部構造と外部兵装システム、つまり統合兵装ユニットに徹底的な改造と改良を加えた物だ。装備の大型化に伴い、質量と容積は増大したが、出力と機動力はC型とは比べものにならないほど高い。
 人型機動装甲は人型であるが以上、人体と同じ駆動及び構造的弱点がある。そのために機械的駆動速度や戦闘機動に上限がある。しかし、高度な重力制御によって慣性などの物理法則を無視できれば、それらの弱点を解消できる。
 h3はまさに、それをコンセプトにして開発された機体だ。
 簡易グラビティドライバーを有し、新型炉心から供給される莫大なエネルギーと重力子は、機体に強大な機動力と戦闘能力を与える。簡易グラビティドライバーによる対外的重力制御によって、瞬時に加速することも可能であり、通常火器に対する絶対的な防御力も有している。
 新型機トライアルの際にその試験機を実際に見、搭乗したグラムは、その時の感覚を忘れてはいない。
 全く凄まじい機動だったと、グラムは思い返す。
 あの時h3は、グラムの意思に応えて徹底的にヴァリアントを叩いた。
 その際、セルベトゥス博士は、h3に新たな戦闘プログラムを組み込むため、自らを犠牲にして、作業を進めた。彼の遺体は、見つからなかったという。
 h3は、博士が我々の為に遺した、彼自身の意思であり、力でもある。
 だが、h3の量産に、議会は難色を示している。
 反対派の筆頭はマリア・エヴァ議員。反対の理由は、予算の問題とされているが、実際、真の理由は謎のままだ。
 h3を早急に量産しなければ、F型との共同作戦において、大きな遅れをとることになり、作戦遂行そのものにも支障が出ると言うのに……。
 グラムは頭を抱えていた。ヴァリアントの事、新型機の事。
 そして今、目の前にも、ややこしい問題が立ち塞がっていた。




***************



「飲むか?」
 グラムは自分のオフィスに備え付けられたコーヒーディスペンサーから一杯のコーヒーを入れながら、静かにそうつぶやいた。
 ソファーに腰掛け、グラムはコーヒーを一口。その隣には、顔色の悪いビンセントが居た。
 ビンセントから連絡を受け、保安部交通課から身元引き受け人として彼を引き受けたグラムは、迷う事なくビンセントを自分のオフィスへ連れ込んだ。グラムはビンセントを同等の仲間だと見ているが、サンヘドリンのオフィスなら、今は軍人として上位の立場に立てる様な気がしたからだ。
「そんな気分ではないか……」
 失笑気味にコーヒーを啜るグラムを横目に、ビンセントは無言のまま。
 いつものビンセントなら、それはそれは残念でしたね、とか、ご愁傷様でしたね、とか、そう言う他人事の様な返事をする筈なのだが、今のビンセントはうんともすんとも言わない。グラムは、その事も気に入らなかった。
 頭をうなだれるビンセント。
「言葉も無いか、情けない……。全く、朝っぱらから電話で叩き起こされるとは。私はもう少し有能な部下が欲しかったよ。朝遅刻をせず、報告書をしっかり書いて無駄口を叩かない……、まぁ、撃墜数はまあまあだが……。とにかくだな、おい、聞いてるのか」
 グラムは突然言葉尻を切り上げ、そして絶句した。ビンセントは、黙り込んでいたのではなく、眠り込んでいたのだ。
「このッ! 馬鹿!」
 ビンセントの頭を、グラムは思いっ切りひっぱたいた。ビンセントはバネが撥ねるように身を起こし、何があったのか状況が掴めないまま目を丸くして自分の頭を撫でる。
「なにすんだよ!」
 抗議するビンセント。しかし。
「なにすんだよじゃない! 人の気も知らないでお前は!」
 グラムの怒りも尤もだった。
 夜の夜中に電話でたたき起こされた彼は、ビンセントの事故の話を聞いた途端に慌てて部屋を飛び出した。後々考えれば、自分で電話してくる程なのだから大事は無かったと分かるのだが、グラムはそんな事にも気が回らない程慌てたのだ。
「もうしらん。お前の事などもうしらん。お前など交通裁判所にでもどこにでも行けばいい」
 そう言い放ち、腕を組んでそっぽを向くグラム。
「しかしだねぇ……」
「しかしじゃない。まったく居眠り運転で人を撥ねるだなんて」
「そうは言いましてもですねぇ大佐さんよ、今当直は俺とレイズの二人しかいないんだぜ? タスクフォースとして俺達が常時待機するにしても、二人だけで12時間勤務は身が持たないぜ」
 溜息をはき、ビンセントの言葉にも一理あるとグラムは思った。