サイコシリアル[4]
僕の視界が捉えたのは、月明かりに照らされた霞ヶ窪の惨殺死体だった。
ベッドの上に横たわる血まみれの人形の様だった。
ベッドは赤く染め上げられ、僕の方に顔を向けて横たわっている。
その表情は苦痛に歪み、絶望に捕われているようだった。目を見開き、口からは下を出し、涎を垂れ流している。
僕の体は、この事実を認識した瞬間に悲鳴を上げた。僕は、思わず右手で口を覆った。
しかし、内部から込み上げて来る物を止めることはできず、
「うぷっうぁえっ・・・・・・うごほ・・・はぁはぁ」
胃の中身をすべて吐き出してしまった。胃酸が酸っぱく、喉に刺激を与え、現実であることを教えてくれた。
初めての人の死体。惨殺死体。虐殺死体。見ていられるものじゃないのに、何故か目を背けることが出来ない。訳が分からな過ぎて、目を離すことが出来ない。
予想外にして想定外。
「人の死は初めてか、涙雫」
その時、声が聞こえた。
僕は、その声に反応し、霞ヶ窪の死体の一点に合わせていた焦点を部屋全体に巡らした。
すると、部屋の角に人が立っているのに気付いた。
「初めての惨殺死体に周りが見えてなかったのか? まぁ、許してくれ。俺もお前が来ることは予想外だったし想定外だった」
声の主は、背は僕より少し高いくらい、分け目の所為で隠れた片目、露出している片目には人相の悪さを主張するくま、ミリタリーベストにカーゴパンツといった様な恰好。
そして右手には赤く染まったダガーナイフ。
「お前が・・・・・・やったのか?」
僕は喉から声を絞り出したものの、一瞬で理解していた。
この男が、霞ヶ窪を殺したこと。
この男が、殺しの達人であること。
そして、この男が、
「九紫戌亥・・・・・・お前が、お前がやったのか?」
作品名:サイコシリアル[4] 作家名:たし