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キミへの贈り物

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エピローグ



 流れる空を眺めながら、この一瞬を永遠のように感じる。
 それはきっと、わたしだけの世界だ。

「最近、調子いいね」
 自己ベストを更新したわたしに先輩が微笑んでくれた。
「なんか身体が軽くなったみたいです」
 実際、わたしの髪は前よりも少し軽くなっていた。「似合ってるよ」と言って貰えたから、わたしも気に入っている。
「記録会も期待できそうだな」
「はいッ、頑張ります!」
 工藤先輩は陸上部唯一の男子マネージャーだけど、陸上の知識が豊富で特にトレーナー役としてすごく活躍している。男子にも女子にも信頼されていて、わたしも先輩の助けがなかったら高校で陸上を続けられていなかったかも知れない。
 顧問の先生に呼ばれた先輩がキャプテンと一緒に練習メニューの確認をしている。もともと今日は記録会前に疲れを残さないよう早めに切り上げる予定だったから、そろそろクールダウンの指示が出そうな雰囲気だった。なんとなく部員達の動きが良くなり、わたしもスタート地点に立って気合いを入れ直す。
 三月の空気は二月よりもやわらかな感じがして、なんだかわたしは無性に嬉しくなっていた。


「コレ、やるよ」
 朝の教室で机の上に置かれたのは包装された小さな箱。
「……何これ?」
「決まってんだろッ。今日は14日だ」
 ああ、そうか。今日はホワイトデーだ。
「ありがとう」って言った方がいいんだろうなとか思っているうちに、篠原は背を向けて歩き出していた。
「そんなの捨てちまえよ」
 ずっと篠原を睨んでいた由紀ちゃんが言い放つ。もう自分の席に座っているアイツに聞こえたかは微妙だった。
「でも、篠原くんからのお返しって、どんなのかな?」
 智ちゃんが興味深げにわたしが持つ箱を見ている。
 だけど、わたしには中身が予想できていた。


 今日は天気が良かったから、昼休みの屋上で箱を開けた。
 ソレを見た由紀ちゃんは「アイツ、進歩ねえなー」と呆れている。
 智ちゃんはわたしの顔を見て「良かったね」と言ってくれた。

 
 そのハンカチは、とても優しい桜色だった。
作品名:キミへの贈り物 作家名:大橋零人