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落日の彼方に

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 高次知的生命体“フォスタライト”に、人類が地上の覇権を奪われて、永い永い年月が過ぎた。
 喪われた七十億の人類は、透き通る鉱石となって地表を埋め尽くす。
 瞳を伏せ、とこしえの記憶を、希望を夢見る。
 高次知的生命体“フォスタライト”は、眠る人々に根を生やし、高次元素(エーテル)満つる大海にたゆたう。それは見渡す限りの、光の草原であった。




 ぼくの前には、天使がたたずんでいる。
 光の草原を臨む中空、翼を広げ、萌ゆる新緑の瞳に安寧とわずかな憂愁、きらめく知性を宿し、ぼくを見つめる。
 天使が手を伸ばす。ぼくは、その手に手を重ねるだけでいい。
 微笑み。天使はもう嘆かない。染み入るような微笑みに、暮れない斜光が夕影を落とす。
「きみは、きみの望むものを手にできたのか?」
 答えはない。
 天使はぼくの手を、両の手のひらで包み、額を寄せた。祈りのようだった。
「いつかきみと、言葉をも交わせる日が来るだろうか」
 すべり出た言葉は、人間の貪欲さをあらわしているようだった。自嘲するぼくを、きみはひたむきに見つめる。ぼくは、きみのように美しく微笑めているだろうか。
「きみよ。やはりぼくは、きみの思うところがわからない。きみが何を思い、何を考え、何を望むのか。こうして手と手を触れあわせれば、あるいは思いも交わせるかと期待もしたが、しょせんぼくは人間なのだ。きみに限らず、人は誰しも、他者の思いをはかれるはずもないのだ。――それでも」
 それでも、ぼくはきみを好きになる。
 ふたりきり取り残された世界、なお不確かなきみを、ぼくは、それでも好きになる。
「きみを知りたい」
 いつか永遠の夕間暮れが終わり、夜が落ち、朝が来て。
 落日の彼方、未知なる明日へと向けたぼくの願いは、きみの心を通っただろうか。確かめるすべもないまま、ぼくはきみへ身を寄せる。指を絡め、瞳を交わす。
 何よりも近く、何よりも遠いきみ。不確かなきみへ抱く、この想いは何か。
 それは希望であり――きっと、
「愛というのだ。ぼくの、ただひとりのきみ」






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題名『落日の彼方に』……ロバート・A・ハインライン氏の遺作『落日の彼方に向けて』より拝借
“フォスタライト”……こちらもハインライン氏『異星の客』より拝借

作品名:落日の彼方に 作家名:リョウ