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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1

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 「その通り。その通りなのです、大井弘子さん。WCAで言うところの分魂です。一作目から五作目に至るまで長く続いたエターの本流とも言うべき魂の流れ。作品の魂の本道。この流れから支流を作って、作品の匂いであると雰囲気をタイニー・エターのほうに導きいれたいのです」
 普通の人では見えない、平均以下のシナリオライターでは考えることもない物語の流れ。作品の血統。作品の縁。WCAの会員の多くは、作品をひとつの命、一個の人格を持つ生き物として捉える。三神もそうなのだろう。あるいはそれは迷信といいし、俗信ともいう。けれど作品に本気で向き合えば向きはあうほどに作品とは命であると思わないとつじつまかあわないという場面に出くわす。
 それは作品に対する純粋な畏敬であり憧憬。
 「本家のエターの製作にかかわり、本家となる作品の声を聞いた人間でないと、その魂を移植することはできない。適当に行き当たりばったりで、凡百のライターに任せてはいけない仕事なのです。この仕事は。ですから、私は市原が本編のエターでお二人を使うと聞いて、それで、こうやって先回りしたということなのです」
 大きな川。エターナルラブという大河。そこの改修工事を頼まれた土建屋姉妹に、ついでに放水路を作らせる。三神の計画はそのような土木事業に置き換えた方が分かりやすいかもしれない。地盤であるとか川底の様子、周りの地勢、川の水量といったものを理解した連中に任せれば、ついでの水路作りもスムーズに行く。当たり前のことである。
 「……作品の資料等は今日中にそちらに配送する手続きをします。何か質問は?」
 三神は尋ねた。丸山花世はこたえる。
 「今はねーな。ま、わかんなくなったら聞きに来っからいーよ」
 「そうですか」
 あっさりと引き下がる妹に比べるとだが、姉は慎重である。何かを考えるように沈黙する大井弘子に三神は尋ねる。
 「何か?」
 「……いいえ。構いません。花世と同じで、疑問があればまたこちらから訊ねることにします」
 大井弘子は言い、そこで会見は終わった。
 
 そろそろいつものようにイツキを開ける準備をしなければならない。