むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1
◆一 キンダーガーデン
新橋にある居酒屋イツキから徒歩で五分。駅前にある24時間営業のマクドナルド。禁煙になっている2階席の窓際カウンター。
大井弘子と丸山花世のコンビは小さな窓に向かって話を始める。
目の前にはJRの高架。その上を山手線が走っている。
「えーと、で、何よ、仕事って……」
時刻は十一時になろうとしている。丸山花世はコーヒーをすすりながら隣に座っているアネキ分を眺める。
「ってか、アネキが一緒に仕事しようって言うのはじめてじゃない?」
「そうね」
ペンネーム大井一矢こと大井弘子は曖昧に頷いた。
「二人で仕事ってことは……細かい仕事ではないよね」
細かい仕事であれば、姉一人でやるはず。
「いや、まあ……そうね」
大井弘子は何かを考え込むようにしていった。気がかりなことでもあるのか。
「としたん? 店のガス栓だったら締めてきたじゃんか」
妹は姉の様子を伺っている。
「うん、いや。そうね」
「……その仕事、ちょっとやばいスジ?」
「……」
そういうところ。だいたい当たり。他人を巻き込むことはあとあとのことを考えると避けたい。で、あれば、よく知っている身内を使うのが得策。そのようなことを姉は考えているのか。
「ま、私も細かいことを言うつもりはないし、金を取りっぱぐれるとか、そういうのは気にしなくて良いよ」
ヤクザな娘は適当に言った。金は……あればいい。なければないで構わない。どうせ親のすねをかじる女子高生でしかないのだし。
「いや……そうね、そういうこともあるのだけれど……」
「?」
「ほかの人には頼めということもあるのだけれど、なんとなく、この仕事、花世に任せたほうが良いような気がするのね。きっと……人としても作り手としても大きく成長できる、そんな気がするから」
「セイチョーねえ……今のままでもジューブンなんだけどさ、私は」
物書きヤクザには向上心はあまりない。その日をとテキトーに生きられればそれでいい。
「大きくなりゃいいってもんじゃないじゃんか。なんでもそうだけど。恐竜みたいにでっかくなりすぎてついには破滅とか。小回りきくほうがいざというときに逃げが打てるんじゃねーの?」
「まあ、そうなんだけれど。でも……そうね」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編1 作家名:黄支亮