トワイライト
俺は腰からホルスターごと銃を外し、ハルに手渡す。
「射撃音痴に役立つとは思えねえけどな」
「余計な心配はするな。おれだって人のひとりふたり、殺めたことがある。今更怖気づかない」
「……人じゃねえよ、あいつらは」
「人だ。だから、おまえのことは撃たない。友達だからな」
「んじゃ仕方ねえ」
引導を渡してくれないなんて、友達甲斐のない奴だ。だけど、人を殺す覚悟があると言いながら、俺のことは殺さないなんて嬉しいじゃないか。矛盾してる。その矛盾が嬉しい、とても。
バカ正直でクソ真面目でとろっちい上に詰めが甘い。このご時世で生きていくにはあまりに不向きだ。不向きなのに、変わらない。三年前からずっとハルは変わらない。だから、だからさあ。
「ん……」
生きろ。死ぬな。
明け渡すな、誰にも。俺が呼ぶまで決して。
「……、……と」
「と?」
「……友達は……こういうことは、しないんじゃないのか」
「じゃあ、バディ?」
「しない。しないぞ絶対。おまえ、ファーストのみならずセカンドまで……もう事故とか過失とかごめんなさいじゃ済まされないぞ。確実に逮捕だぞ逮捕」
「いいじゃねえか」
「何が……、っ」
「もう黙ってろ」
最期くらい、と言えばまたわんわん泣かれそうだったので、先んじてふさいでおく。
瞼を落とす寸前、水平線に吸い込まれてゆく太陽を見た。
ついえる間際の光がひとすじ、空に伸びる。忍び寄る夜を、終焉を切り裂くように。呼び声を届けるように。
ひとすじの、あざやかな光が――
「またな」
「ああ、また会おう」
T w i l i g h t .
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“モノリス”……映画『2001年宇宙の旅』より拝借
“ビジター”……ドラマ『V』より拝借
安住ハル……「ハル」という名前は、『2001年宇宙の旅』に登場する人工知能『HAL 9000』より拝借