小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

夢の王様

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

「6度目っつったろ?最近、人がひっきりなしに来ては、失せる。お前の前の王なんか、法案会議中に消えやがって」
それは、喜ぶべき事じゃないのか。危篤患者がきっと目を覚ましたんだよ!とポジティブしてみた俺の前で、吉川の眉が吊り上げられた。
「普通は、20年は在位が続くんだ。そんな魂ばかりが此処に来る」
6代前の王が成仏してから。吉川の言葉に、マロとゴエモンがピシリと固まった。とってもシリアスホラー展開が予測されたので、俺は空気を遮るように言った。
暴露すっとホラーの類は苦手なんだ。
「じゃあ、俺、王様止めまーす」
「ああ゛?」「そんな!」「ご主人!」
上から眼力鋭くした吉川に、悲愴な顔をするマロ、ご主人を窘めるゴエモン。ゴエモンだけ、なんか…まあ良いか。
「そして吉川さん?に王位を譲ろうかと思います」途端に、いきり立つ吉川。
「ざけんな!俺以外に神官職と出目の野郎を使える奴なんかいねーんだよ!」
何、この無意識告白。無意識デレ?新ジャンル?とりあえず吉川の台詞(特に後半部)を流して、俺は先ほど聞こうと思っていた続きを聞くことにする。
「聞いてる限りじゃ俺もすぐ消えそうな雰囲気だし、吉川さんのが適任かなぁと。…てか王様とか神官って何するの?」
「…王様は、玉座に座っていらっしゃるだけで」
な に そのお飾り治世。そんな俺の心情に気付いたマロが慌てたように近づいて来た。…デカいよなぁ。やっぱり。
「我々にとっては、玉座に人がいるかいないかがとても重要なのです!あと、あとは、偶にご公務とか、あ、でもそんなに大変なことでは無いです!抽選で選ばれた国民たちに包容とか握手とか、あと高官たちと食事などを」
弁明するように、必死に獣手を振って喋るマロ。なんて可愛いのだろうか。抱き締めたい…と半分意識飛んでしまった俺を正気に戻したのは吉川の声だ。
ちなみに、マロが喋った内容は殆ど聞こえなかった。俺はどんどん、この夢物語に陥落している。正確には、その中のでっかいウサギに。
「神官は、警察と似たようなものだ。国の平和を守り、王よりは気軽に民と接する人間。ここの連中は基本的に人に飢えてんだよ」
不意に嫌な仮説が出来た。無意識に手を伸ばし、マロの柔らかな毛並みを頬から肩にかけ撫でつけつつ、口を開く。
「ここから現世に関与することは可能?俺の友人が立て続けに車に轢かれているんだ。俺も車に轢かれた…車は車でも自転車だけどね」
なんで俺だけそんなマニュアル車。しかも重体…消したい事実だ。きっとドライバーの近所のお姉さんもびびったことだろう。まさか自転車で人を重体にしてしまうなんて思いもしなかっただろうから。俺もびっくりだ。
…やばいぞ。マロが気持ち良さそうに半目だ。震えるヒゲがもう!かーわーいーいー!
「…可能性はあるな」
いうやいなや、吉川はゴエモンに顔を向けると、6代前の従者は今どこにいるか調べられるか?と義務的な口調で言う。はっと頭を下げ、素早く退出するゴエモン。その後ろ姿に「さすが俺の出目だ」と、片端上げてニヒルな笑いをする吉川。それを目撃した俺は、本格的にこの人無意識デレーだと結論した。ていうか3人続いた時点で調べとけって!
「なあ、6代前の、ってことは、従者って一々その都度変わるのか?」
「まあな。どういう仕組みか分からんが、人がこの国に来る度に、その人物と最も相性が良い動物がその側に立っている。それを抜きにしたら、連続で人を独占すると血を見るからってのも有るだろうよ」
うーわー。もしその戦いの中に、猛獣とかいたら怖いよなぁ。そんな事を考えていたら、ゴエモンが戻って来た。変な事を考えていたせいか、どこかぎこちないゴエモンの後ろに、白猫が居た時ごめんなさいと思わず口にしていた。吉川は、激しく舌打ちした。
「これはこれは、人様方々、お揃いで。しがないわたくしに何のご用でしょう」
食物連鎖的に相性が悪そうな、猫と金魚を離すべく、俺が動こうとした時。吉川がずんずんと近付いて、さすがに驚いてその場に跪く2人を余所に、ゴエモンを無理やり自分の腕の中に収めるや、ずるずると玉座まで引きずって来た。
ちょっと呆れたような顔で猫がその軌跡を追って言う。
「恐れ多くも神官様の右腕をどうこうしようなどと思いませんよ」
「…だろうな」
気持ちは、分かる。分かってしまったと、言った方がいいか。全身が、マロと同じように白いが、マロとは違う筋肉質なそれは、哺乳綱ネコ目(食肉目)の本来を思い興させる。俺は、どうしてかマロを守るように1歩前に、足を踏み出ていた。
本当にどうしたよ俺。



という夢にありがちな中途な所で目を覚ました俺が見たのは、白い天井だった。
看護婦さんが一瞬視界に入って、慌ただしい足音と共に消える。
峠は越えました。
危なかったね。
そんな言葉と共に、俺の現実は戻って来た。



麗らかな春の陽気。
回復が異様に早かった俺は、普通の危篤生還患者より早いタイミングで集中治療室から一般病棟に移った。
「かーんーごーふーさぁあん」
隣の人の世話をする看護婦さんを無理やり召喚し、気になって仕方なかった事を聞く。
「この病院に‘吉川’っていう男の意識不明患者っている?出目ラヴ逸話があるとなおグッド」
あからさまに不審気な看護婦さんの後ろから、あーと気の抜けたような男の声がした。
「いるいる。植物状態の出目ラブ神官…訳して木村くん」
「菅野さん!?」
看護婦さんが驚いたように振り向いた。
その先には、綺麗な30代位の男が1人。病人らしく横になり、点滴管の向こうから青白い顔で。
「僕の従者は白い猫だった。向こうで元気だったかな?あの子は僕に依存し過ぎていたから、変なことになりそうで心配だったんだ。喧嘩して、…成仏したらお前のせいだなんて捨て台詞残して…生還しちゃったから」
夢の王様は、そう言って悲しそうに笑った。滞在期間が短か過ぎた俺にはなんとも言えない。
退院後、しばらく俺は動物園の触れ合いコーナーから離れられなかった。
触れ合いコーナーのウサギは、獰猛で俺は暫く絆創膏を手放せなくなった。




作品名:夢の王様 作家名:謹祝