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夢の王様

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俺が大学3年生の頃だった。唐突に友人が立て続けに車に轢かれた。通り魔?とそれぞれ近くに住んで居るも、別次元の友人ら(バイトの友人、大学の友人、サークルの友人、高校の…etc.)の話を聞いていたが、ある日俺も車に轢かれた。
 危なかったとは峠を越えた後日談。意識不明の重体だった俺は、その時変な夢みたいなモノを観ていた。…なんで三途の川とか爺ちゃんとかじゃ無いんだろう。いや俺の爺ちゃん元気なうえ、家はカトリックだからかもな。しかし、これは無いと思う。
リアルウサギの赤い目がパチリと瞬いて俺をみる。
「どうしたんですか、王様」
 そのピーターラビット?かなんかに出てきそうなチョッキスタイル、俺の深層心理だったら悲しいねぇ。
「何でも無い」
 俺が笑うと兎は、ほっとしたようにヒゲを揺らす。可愛いより俺の顔2倍のリアルウサギは怖いよ、恐怖が先立つよ。
 俺は、リアルメルヘンとでも銘打ちたい動物の国の王様になっていた。自然の敵じゃないの?俺ってさ(昔川にゴミ捨てたの謝りたい。その後ボランティア参加で巡ったゴミ+を拾ったので許せ)。赤いクッションを敷き詰めたその玉座は、とても座り心地が良かった。気が付くとそこで寝ていて、事態はそのまま王様へ。何その破綻した話。
リアルウサギが俺の従者位置に居るのは何となく理解した。しかし夢の癖に、自然に設定が分かっているミラクル付属が付いてない。
夢だろうこれは。夢じゃなから、どうしよう?
「なあウサギ」
クッションに持たれながら、護衛?なのか横で二足立ちしているウサギに声をかけた。ピクリと長耳を横にして、はい?と振り向く彼の肩に思わず手を置いて人差し指を伸ばす。素直に彼が首を回したおかげで、俺の指先はウサギの白い頬に埋もれた。
やっ柔らかっっかっかわっ
予想外にそれは自分の動揺を誘った。
「あの…」
「ごめんウサギくん、自分の中の悪戯な悪ガキを抑えきれなくて」
長耳を入れると全長2メートルはあるだろうか。何故かふわふわな白い毛皮に身を包んだそれが『て』から始まり『し』で終わる奴に見える。目頭を押さえてうなだれながら、俺は昔聞いた話を思い出した。
『独身男性が兎を飼うと、もう兎無しじゃ生きていけなくなる』
という話。まさか実話か。飼ってはおらず出会ってしまった系だが。
「悪戯なお子様?」
頬つんされた事は、彼にとっては些事ならしく、むしろ俺が放った言葉に引っかかりを感じたらしい。有り得ない上品さで口上変化した自分の台詞に、なんだかちょっと無性に謝りたくなった。地球とかに。と、そんな有る意味ドキドキコンタクトをしている最中、騒音が近付いて来た。
それは、俺とウサギがいる部屋の入り口にそれらは五月蝿く足を止めるや口論をする。
『テメー出目の癖に生意気なんだよ!俺が会いてえつってんだろうが!』
『ご主人!しかし、まだ正式に謁見の申し込みをしておりませぬ!お願いですから、家に帰りましょう!不敬罪で私が縛り首になる前にっっ』
『うるせえ!お前は、黙って俺に付いてくりゃいーんだよ!』
…告白?変に男らしい台詞を吐いて、御簾を蹴るように分け入って来たのは自分と同じように黒い髪に焦げ茶の瞳の日本人だった。
男に引き摺られるようにして(止めようと背中から男を逆方向に必死に引っ張っている)、出目金魚も入って来る。お祭り屋台で優雅に泳いでいそうな黒。ただし、下は二足歩行。出目金魚の腹は胴を形成するのに伸び、尻尾のように尾鰭が尻に付いている。腕は人でいう顔の横(魚で言う鰭がある所)に付いていた。此方は大部分化け物風情だが、男に引き摺られ、此方に近付く度に首を駄目駄目と横に全力で振っているせいで、なんだか哀れみを覚えて恐怖が湧かない。
 とうとう男はクッションにだらんと沈む俺を庇うように前に立つウサギの前に仁王立った。男は、特徴的な少し大きめの口を嫌味に吊り上げ、自分よりも大きいハズのウサギを見下すようなのけぞりっぷりで、「我が国の新国王に、神官、吉川がご挨拶に参った」と。
ウサギの耳はピクピクピク!とせわしなく動いている。俺は、少し怒ったような厳しい声を背中越しに聞いた。
「吉川様、王様は即位したばかりにございます。いくら、王と同位のお立場であろうと、しかるべき手続きを行い出直すが礼儀でございましょう!」
「は!そう言ったってな、マロ。これが‘6度目’となりゃー俺だって、手続きくらい端折って、見極めたくなるってもんだろ?」
ま、ろ?ウサギの名前ってマロ?俺は、初めて知った事実に驚愕する。このメルヘンな夢って日本仕様なんだ?
激化する言い争いを放置して、男を止めるのを諦め3歩離れた横で控えている化け金魚にそっと近付いた。
「出目さん、出目さん、お名前は?」
「っ!?おお王様?」
「しぃー。あの2人は、ラヴラヴタイムに突入しちまったんだし放って置こうぜ?それより俺、知りたい事山積みでさぁ。俺は、後藤って言うよ」
「…ゴエモンです」
日本仕様、凄いね。出目金って確か、中国出身種の筈なんだけど。
「ゴエモンさん、俺、実は良くわかってないんだけどさ。王様って何するの?ここってどういう所なの?」
淡々と聞く俺に、たじろぎながらもゴエモンは教えてくれた。此処は、人に焦がれた動物の魂があの世に行けずに留まり、いつしかそんな動物の魂ばかりが集って国が出来た場所なのだという。
焦がれたっていうのは、人になりたいということでは無く人間が大好きだってことだ。だから、この国を治めるのは動物ではなく人。大昔、何故人間がっ!というツンデレ革命が起き(というのも人を憎みし動物の魂はこっちに来ず、さっさと成仏してしまうそうなのだ。そして成仏した先には、人は居ないという一般論があるらしい)一時期ハムスターが王様になった事があるが、皆が皆種族が違うせいで破綻したらしい。
基本的に、ここの奴らは、人に毒され飼い慣らされ人を愛す哀れな動物たちだ(俺の結論)。よって人間のトップの言う事しか聞かない、と。
ふむふむとゴエモンが説明してくれた国事情を頭で咀嚼し、納得したところで、俺はとんでもない事実に気付く。それでいくと俺、
「なあ、ゴエモン。俺って死人ってこと?」
まあ轢かれたしねぇ、俺。メルヘンじゃ無く、ホラー色が台頭してきた。最初からちょいと怖い要素はあったがな!
「あ、いえ、その」
口ごもるゴエモンに、唐突に偉そうな口調が割り込んで来た。吉川である。ラヴタイムは終了したらしい。
「危篤か重体、又は植物人間だ」
「……我々は、人があの世に旅立とうとする道を塞ぐ事ができません。ですから、自然に現世で何かの事情で生きてはいるが魂はさ迷う方々をお招きし、一時的に治世を行って頂いているのです」
あとを次ぐように、マロが言った。そんな申し訳なさそうに言わないで!何故か凄く俺のテンションが上がるから!どうした俺?
「その‘自然’っつうのも最近怪しいがな」
「吉川様!」
そんな俺の心の事情をスルーで、吉川は不穏な事情を暴露した。ゴエモンが声を上げるが、吉川爆弾は止まらない。ゴエモンは、きっと将来心労で成仏してしまうんじゃないか。
作品名:夢の王様 作家名:謹祝