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夏少年

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そのとき君が宿の人に尋ねるのを聞いていたのは、きっと僕だけだった。

――この辺りの日の出って、夏は何時頃なんですか?

君の特徴的に掠れた声を聞いていた。それに答える女将さんの声を聞いていた。
日の出の時間は、僕らが住む土地よりもだいぶ早いことを知った。

だけど、それがどれだけ早い時間だったとしても、とにかく僕はその時間に起きる必要があった。
よっぽどアラームをセットしようかと思ったけれど、それではバレてしまうから、体内時計を信じて眠った。

君が、早朝の海でカメラを構えるだろうと思ったから。

都会には無い太陽に向けてシャッターを切るだろうと思ったから。

そしてもしその瞬間に君の隣に立っていられたら、

それはとても、

素敵なことだと思ったから。


ー夏少年ー


他のメンバーを起こさないようにと、君は静かに自分の布団から起き上がった。
眠たげな瞳で瞬きして、枕元の携帯電話を拾い上げる。そこに表示されているのであろう時刻を見て、君は満足そうに小さく笑みを浮かべた。

ふわぁと思った以上に可愛らしいあくびを噛み殺しながら君は洗面所に向かう。
僕は瞳を閉じて静かに呼吸を繰り返す。それが寝たフリだなんて君は気づかない。僕はそれが、少し嬉しい。

体内時計と潮騒が、僕を君よりも早く目覚めさせてくれた。
おかげでとても眠いけれど、完全に覚醒するまでの微睡みの中で君の寝顔を見つめている時間はとても幸せだった。
僕と君の間には二人居るのに、君の寝相が悪いのか、その二人の寝相が悪いのか、はたまた僕の寝相が悪いのか、どういう訳だか僕が寝ていた位置からは君の寝顔がよく見えたんだ。

君が襖の向こうに消えたから寝返りをうつ。天井の木目は昨夜と変わらない。僕の寝相は問題なかったみたいだ。

静かに瞼を閉じる。

静かに呼吸をする。

波の、音が、している。

いくつかの候補があった中からこの小さな民宿を今回の合宿所として選んだのは、道路一本隔てた先が海岸という魅力的な条件があったからだった。

今年は海を撮ろうか。

もともと少ない部員たちの中に異を唱える奴はいなかった。

日の出前の暗い部屋。
静かに冷えた空気。海の匂い。波のざわめき。

普段海とは無縁の生活をしている僕らにとって、全てが新鮮で、心地よい。

「・・・・・・ーー」

また、眠ってしまいそうだ。せっかく起きたのに。

そのうちに君は戻ってきて、僕はまた瞳を閉じる。視覚以外で君を感じる。
六つの布団が並び五人が眠る狭い和室を何度か行ったり来たりしたあと、君は、部屋を出た。

すぐに行ったら怪しまれる・・・?

そんなの、君のせいで起きてしまったと言えばいい。

それにこれ以上こうしていたら本当に眠ってしまうから。

僕は自分の一眼レフを抱えて、布団を抜け出した。


作品名:夏少年 作家名:なち