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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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「緊急事態、侵入者が現れました。侵入者は桃とその下僕二名、合わせて三名と思われます。すでに下僕二名を拘束しました。……ええっと、桃は食堂のほうに逃走中――以上」
 これで警備の多くは食堂のほうに回されるハズだ。目的地が食堂近くだったら最悪だけどな!
 雉丸とポチは背中にビームライフルを突き付けられ、囚われて護送されているフリをした。
 が、ここで緊急事態が発生。道がわかんねぇ!
 ラビットスターを地上から見たとき二つ目の月に見えたとおり、その大きさは計り知れないほど大きいのだ。道に迷ったが最後だ。
 雉丸とポチを連れてウロチョロ。何人かの兵士と出会ったが、ご苦労様と軽く会釈を交わしただけ。
 だって訊けない!
 『道がわからないんですけどぉ』なんて尋ねてボロが出たら、このラビットスターにいる吸血姫美女軍団に総攻撃される。さすがの桃でも相手しきれないであろう。
 だからと言って、このまま人質を連行したままフラフラしていても疑われる。
 すでに兵士たちから少しずつ変な目で見られはじめていた。
 鈴鹿は全身から変な汗が噴き出していた。本当はこのままヘルメットを脱ぎ捨てて、新鮮な空気を思う存分吸いたかった。
 フラフラを続けていると、いつに兵士の一人に声をかけられてしまった。
「どうしたの?」
 優しい女の声だった。
 桃は『お前が言えよ』的な感じで鈴鹿の脇腹を小突いた。
「ええっと、あのぉ……恥ずかしながら道に迷ってしまって」
 正直だった。困ったときは正直に言う、大事なことです。
「あはは、さっきから人質を連れたままフラフラしてるからどうしたのかと。私も道に迷うのよねぇ」
 よかった相手が天然で!
 鈴鹿は幸運に感謝しながら、兵士に頭を下げた。
「道案内お願いします。かぐや様のところまで連れてくるように言われています」
「ええ、いいわよ。あのカートに乗って行きましょう」
 怖いくらいラッキーだ。
 広いラビットスターをカートに乗って移動することになった。
 カートは自動操縦らしく、目的地を入力すればそれでオッケーだ。これに乗れば道に迷うことなんて……。
 道に迷ったらカートで移動すればいい。それをしなかった桃たちは疑われ当然だったが、よかった疑い深い兵士じゃなくて!
 いとも簡単にかぐやのいる操舵室まで来てしまった。
 宇宙空間を見渡せる半球型の大きく透明な窓。コンピューター前に座る美人オペレーター。そして、船の舵にも似た操縦桿を握る十二単の影。
 海賊帽を被ったかぐやが振り替えた。というか十二単に海賊帽って……斬新な。しかもよく見ると着物の柄はドクロマークだ。
 ここまで案内してくれた心優しい兵士がかぐやに敬礼した。
「侵入者をここまで連行してまいりました!」
 桃と鈴鹿もマネして敬礼した。
 でも、敬礼したときにうさ耳をぴょんぴょんと曲げる動作ができない!
 大丈夫だった。そんなところなど見過ごされたようだ。
 かぐやがゆっくりと、十二単をズルズル引きずりながら、ものすっごく動きずらそうに、さらに辛そうな顔をして近づいてきた。
「ハァハァ……少し動くだけで息が切れる」
 着なきゃいいんじゃん!
 汗を拭ったかぐやは雉丸とポチに目を向けた。
「久しぶりお二人さん」
「かぐやたんお久ぁ!」
 元気に無邪気に挨拶を返すポチ。拳を握った桃の手を鈴鹿が必死になって押さえた。
 雉丸は眼鏡の奥から鋭い目つきでかぐやを睨んだ。
「俺たちをどうするつもりだ?」
「う〜ん、かぐやのペットにしちゃおうかなぁ……サルみたいに」
 物陰から黒いプロテクトスーツに全身を包み、フルフェイスの顔の部分が……猿のお面だった。どう考えてもサルだ、そうだサルだ、猿助に間違いない!
 シューゴォーという呼吸音を響かせながら、厳かな雰囲気で黒い男はマントをなびかせ近づいてくる。がに股で。しかも顔は猿面だし。
 雉丸が黒い男に問いかけた。
「猿助なのか?」
「よぉ雉丸久しぶり!」
 気軽な感じで黒い男――猿助は手をヒラヒラ振って見せた。
 ポチは瞳をキラキラさせた。
「サルたんのコスプレかっこいい!」
「そうだろ、オレも気に入ってるんだ。このマントとか悪役っぽくてカッコイイだろ?」
 猿面以外はな!
 まさに猿面以外は悪役そのもの。それも下っ端ではなく上から数えて三番目以内に入るくらい。
 雉丸は軽蔑を込めて猿助を睨んだ。
「桃さんを裏切って敵側についたか?」
「だってよぉ、ここは飯も旨いし、周りは美人のねーちゃんばっか。みんなオレに優しくしてくれるから、まるで極楽浄土みたいなんだぜ?」
 完全に陥落されていた。
 かぐやは猿助を抱き寄せて爆乳でハグハグした。
「今やサルは桃じゃなくてかぐやの下僕なの。かぐや専用のエナジーポットでもあるんだからね」
 身も心も下僕だ。
 桃はブチ切れる寸前で手に持っていた天叢雲剣を薙ぎ払う寸前だった。
 かぐやがその天叢雲剣に気づいた。
「それってたしか桃の武器じゃないの、どうしたの?」
 すかさず鈴鹿がフォロー。
「桃が落とした物を押収しました!」
「ふ〜ん、ドジね……あのクソババア」
 限界だった。
「誰がクソババアだってぇ〜、その口を針と糸で縫いつけてやろうか!」
 ヘルメットを投げ捨てた桃が周りに構わず天叢雲剣を振り回した。
 こうなってしまっては仕方ない。
 鈴鹿はすぐに雉丸とポチの手錠を外し、雉丸は鈴鹿に預けていたショットガンを受け取り、入ってきた扉に何発も撃ち込んだ。
 火花を散らしながら電子ロックの扉がショートした。これで誰も中に入って来られない。外に出る方法はあとで考えればいい。
 驚いたかぐやは動こうとするが……十二単が重すぎて動けない。
 オペレーターと数人の兵士たちがビームライフルを構えた。
 発射されたビームをすべて弾き返す天叢雲剣。
 雉丸が撃ったリボルバーも兵士たちの手にヒットして、ビームライフルを床に落とされた。
 そして、ポチは物陰に隠れながら両手で握った拳を胸の前。
「ファイト♪」
 言葉で応援。
 ついにかぐやが十二単を脱ぎ捨てた。
「こんなの着てられるかボケッ!」
 官能的なラインを描くボディスーツに身を包んだかぐや。武器は――丸腰だった。
「しまった!?」
 かぐや逃走!
 奥の部屋に逃げるかぐやを桃が追う。
「ここはてめぇらに任せたよ、アタイはかぐやを追う!」
 そう言い残して桃は姿を消した。
 一方、鈴鹿は猿助と対峙していた。
「ダーリン……その格好はダサッ!」
「どこかダサイんだよ、言ってみろよ!」
「サルのお面はダサイですわね。あとはまったく問題ないと思いますわ」
「このお面がチャームポイントで小さい子供にもウケるんだろ!」
「やめてくださいまし、最近の子供を甘く見るような発言は。最近の子供はもっと大人ですわ」
 なんだこの言い争い。どうでもいいような感じがするぞ。
 しかし、この言い争いは熾烈な戦いの序曲に過ぎなかった。
 鈴鹿VS猿助が今まさにゴングを打った!

 大通連と小通連が宙を舞う。
「桃に惚れていたと思ったら、今度はかぐやでございますか。どうして妾ではダメなのですか?」
 その眼差しはどこか哀しげ。