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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 奴隷はエネルギープラントとして、かぐやたちにエナジーを供給する。スペースかぐやは生命体からエネルギーを吸って糧としているのだ。それはまさに吸血鬼のような存在。
 それゆえに、宇宙海賊団スペースかぐやの美女軍団は宇宙吸血姫と呼ばれているのだ。
 人間狩りのために地上に降り立ったときが迎え撃つチャンス。だが、ひとたび天に昇ってしまえば手が出せない。
 夜空の下、屋根の上で寝ころんでいる桃。
「あんたの妖刀であの紅い月まで行けないのかい?」
 もちろん尋ねられたのは鈴鹿だ。
「できるもなら妾がとっくにやっておりますわ。嗚呼、ダーリンが心配で今宵も眠れるか……」
 あれから猿助がどうなったのかわからない。もしかしたら干からびたカスが、宇宙空間に投げ捨てられているかも知れない。
 超科学で攻めてくるスペースかぐやの進撃はすさまじい。ジパングが乗っ取られるのは時間の問題だろう。
 でも、相手はあの星々の向こう。
 雉丸に膝枕されていたポチが星空を指差した。
「あっ流れ星!」
 キラキラと尾を引きながら消えた流れ星。願い事を唱える時間もなかった。
 雉丸が難しい顔をして、急に瞳を見開いて口を開いた。
「そうだ、かぐやが乗って来た乗り物はどうなったんだ?」
 そういえばそんなものがあったようななかったような。
 あれはたしか……どうなったんだっけか?
 急に鈴鹿がビクッと背筋を振るわせた。
「きゃっ!」
 振り向くとそこには第三のお月様……じゃなくってハゲ頭。
「ふぉふぉふぉ、ワシの出番のようじゃな」
 亀仙人が鈴鹿のケツをなでなでしながら登場。
 そして、いきなり鈴鹿にビンタされて屋根の下に転げ落ちた。
 さよならエロ仙人!
 いや……いつもどおりしぶとく生きていた。
 虫の息で屋根を這い上がってくる亀仙人。
 止めを刺そうと鈴鹿は蹴り落とそうとしたが――。
「トラ柄のパンティーが見えとるぞ」
「きゃっ!」
 鈴鹿は袴を押さえて後ろに下がった。桃だったら構わず蹴っていただろう。
 命拾いをした亀仙人は鼻血を垂らしながら、本人はカッコよく決めたつもりで地上を指差した。
「アレを見よ!」
 ここにいた全員でアレを見ると、そこにはかぐやが乗ってきた竹形飛翔体があった。
 あの村からわざわざここまで運んできたということは?
「ワシの天才的な頭脳で修理したぞい。あの〈星の船〉に乗れば〈紅い月〉まで行くことができる……ような気がする」
 自信ないんかいっ!
 桃が力強く立った。
「おもしろそうじゃないか。あのお空の向こうに行けるなんて、ジパング一の絶世の美女に相応しい人類初の偉業だねぇ」
 失敗したら行き先はあの世だが。
 桃が行くと決めたら彼らもついて行く。
「俺は桃さんの行くところならどこまでも」
「ボクも行く行くぅ。お星様がキラキラで楽しそぉ!」
 二人の他にやはり鈴鹿も決意を固めていた。
「もちろん妾も同行させていただきますわ」
 あの宙へ羽ばたく仲間が揃った。
 桃はひょいと軽い身のこなしで屋根から飛び降りた。
「てめぇら、アタイの足手まといになるんじゃないよ!」
 こうしていつに桃はジパングを飛び出し、舞台は広大な宇宙の海へ!
 が、その前に――。
「本当に動くのかいこれ!」
 ギュウギュウ詰めの〈星の船〉内部。もともと一人用だったらしく、大人三人と子供一人のアトラクションではない。かなり苦しい状態だった。
 外にいる亀仙人から無線機で指示が出される。
《そこの赤いボタンを押すんじゃ》
 赤いボタン何かどこにあるんだ?
 ギュウギュウ詰めで体を動かせる状態にない。
 桃が叫ぶ。
「誰だ今アタイのケツ触ったのは!」
 ノーリアクション。きっと不可抗力だが、誰も名乗り出る気配はない。出たからここで惨劇が起こる。
 一番小柄なポチが体の間を縫って赤いボタンを見つけた。
「あったよ、ボクが押しちゃっていい?」
 瞳をキラキラに輝かせて押す気満々。
 桃がゴーを出す。
「押せ、さっさと押せーっ!」
「はぁ〜い♪」
 ポチッとな。
 轟々と駆動音を響かせながら〈星の船〉が揺れた。
 バランスを崩した雉丸の顔面が爆乳にダイビング!
「…………」
 慌てて雉丸は顔を離した反動で後頭部を壁に強打。
 嗚呼、猿助がいないばかりに、いつの役回りが雉丸に……不幸だ。
「てめぇ、さっきケツ触ったのも雉丸だな!」
「ち、違います信じてください!」
 暴れようとする桃だが、ギュウギュウの状態では手も足も出せなかった。
 〈星の船〉がまた激しく揺れた。
 スピーカーから亀仙人の声が響く。
《おお、飛んだぞ!》
 ジェット噴射しながら〈星の船〉が天に昇っていく。
 かろうじて桃も丸い窓から外の気色が見れた。
「都がもうあんな遠くだ」
 すっかり雉丸への怒りも覚めていた。
 ポチもはしゃぎながら窓の外を眺めている。
「わぁ〜い、飛んだ飛んだぁ」
「あのぉ、妾はぜんぜん見えないのですが?」
 ギュウギュウ詰めなので仕方ありません!
 あの夜空に浮かぶ紅い満月に〈星の船〉は還っていく。
 しかし、それに乗るは桃たち一行。
 果たして桃たちはスペースかぐやに打ち勝つことができるのか!
 むしろ、無事に着くことができるのかっ!?

 桃たちを乗せた〈星の船〉は自動操縦でラビットスターに到着し、運良く味方の船と認識されて格納庫まで無事に到着した。
 ――が、〈星の船〉のハッチが開いた瞬間、バッタリ警備兵と鉢合わせ。しかも二人組。
 白いプロテクトスーツとフルフェイスヘルメット、頭からはうさ耳がぴょんと出ている。手に持っているビームライフルの銃口がこっちを向いていた。
 桃は天叢雲剣を抜こうとしたが、どっかに引っかかって抜けない。物干し竿のときと同じ弱点だ。
 いち早く外に飛び出したのは大通連と小通連だった。
 小通連がビームライフルを斬り、大通連が警備兵に峰打ちを喰らわせた。連続して倒れた二人の警備兵。
 他の警備兵がいるような物音が聞こえる。
 桃たちは急いで気を失っている警備兵を引きずり物陰に隠れた。
 桃と鈴鹿は示し合わせたように互いを見つめ頷き、男二人に『あっちを向いてろ』と明後日を指差すサインを送った。
 すぐに桃と鈴鹿は警備兵の防具を脱がして自分たちに着せた。
 着替え終わった桃は胸を押さえた。
「サイズが合ってない」
 女性のボディラインが完璧に再現されているプロテクトスーツ。堅い素材でできているために個別に寸法を測って配布されている物っぽい。
「妾もサイズが……貧乳で悪かったですわね」
 桃とは別の意味でサイズが合っていなかった。
 プロテクトスーツに着替えた二人。あとはヘルメットをかぶるだけだが、ここで重大な問題が発生。
 うさ耳がない!
 なんてことは心配ご無用。出発の際に亀仙人がうさ耳カチューシャを授けてくれていた。しかもなぜか四つ。それはつまり雉丸とポチに女装を……。
 雉丸が桃にロープを手渡す。
「これで二人を縛っておきましょう」
 下着姿の警備兵を縛り上げた。しかも亀甲縛り。
 さらに警備兵が各一個ずつ持っていた手錠で雉丸とポチを拘束した。
 これで準備は整った。
 鈴鹿は無線機を手にしてスイッチを入れた。