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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 なんと桃の武器は愛刀じゃなくて愛棒だったのだ。しかも、物干し竿なので正確には武器でもない。雑貨用品だ。
 が、桃の手にかかれば物干し竿ですら凶器になる。
 打席に立った桃が第一球、振りかぶった!
 カキーン!
 見事なホームランです!!
 次から次へと小型隕石を打ち返していく桃。そんな桃もスゴイが、燃えた石を打ち返せる物干し竿もただの竹とは思えない。
 鬼ヶ島はもうすぐそこだ。
 セキュリティも負けてられないので、隕石の大きさが一回りも二回りも大きくなった。今度はサッカーボールくらいの大きさだ。これは当たったら死ねるぞぉ!
 桃が大きく物干し竿を振り回した。そこへ海から這い上がってきた猿助が現れ――。
「ぐわっ!」
 物干し竿が顔面に直撃して猿助はまたまた海の底へ。
 もういい加減、海の底で成仏しちゃえ♪
 降り注ぐ隕石も大変だが、さらなる困難が起ころうとしていた。
 ポチが船底を見てプルプル震えている。
「あ、あのぉ〜……浸水してるよぉ?」
 思わず桃は顔をしかめた。
「はっ?」
 雉丸も少し難しい顔をして船底を見た。
「……本当に浸水してるな」
 船に空いた小さな穴から、水が温水洗浄便座のように噴き出ている。
 よ〜く見ると、穴から尖った刃先が顔を覗かせていた。
 シン、キング、タイム!
 この尖った刃は何でしょ〜っか?
 答えを出したのは雉丸だった。
「サルの鎖鎌の刃だな」
 つまりこういうことだ。
 海の底へ沈んだ猿助。桃たちを乗せた船はドンドン先へ進んでいる。そこで猿助は置いてけぼりにならないように、船に鎖鎌を刺して引きずられることを思いついたのだ。
 そのことを理解した桃は怒り心頭。
「あのアホザル、こういうのを猿知恵っていうんだよ。船に穴開けたらどうなるかわかるだろう!」
 すぐに桃は鎖鎌を抜こうとしたが、それを雉丸が止める。
「待ってください、抜いたら一気に水が!」
 遅かった。
 何が遅かったって、桃は鎖鎌の刃を抜かなかったが、代わりに飛来してきた隕石が船に穴を開けた。
 嗚呼、浸水。
 船底から噴き上げる海水。
 桃の怒号が飛ぶ。
「さっさと漕ぎな!」
「いっぱい頑張ってるよぉ」
 涙目で訴えるポチのオールを桃が奪い取って、自ら船を全速力で漕ぎはじめた。
「うぉりゃ〜〜〜っ!!」
 物干し竿をブンブン振り回すだけのことはあって、ものスッゴイ怪力で船を漕いでいる。
 ポチが海から繋がる巨大洞窟を指差した。
「あそこが入り口でしゅっ!」
 でも、やっぱり浸水。
 島にたどり着く前に荒波にもまれ、ついに船は転覆してしまった。
 涙の進水式。ここでこの船とはお別れだ。何の思い入れもないけどな!
 そして、ちょっぴり塩辛い涙。
 てゆーか、大泣きしながらポチが溺れていた。
「助けてぇ!」
 溺れる姿、犬かきのごとし。
 溺れるポチを桃は完全スルー。泣き叫ぶ声なんて右耳から入って左に抜けている。
 ポチの服を掴んだ雉丸。
「大丈夫かっポチ!」
「兄さま!」
 この人だけが自分の味方だ。だからこそポチは雉丸を兄のように慕っていた。
 が、雉丸の次の言葉で辺りは凍り付いた。
「実は俺も泳げないんだ」
「えっ?」
 二人して沈没。
 義兄弟の愛は見事に海の藻屑となったのだった――完。

 どうにか荒波の海を泳ぎ切った桃は、船着き場までやってきていた。近くに停泊しているのは巨大な海賊船だ。
「クソッ、下僕とはぐれるなんて。サルとポチはいいとして、ウチで唯一役に立つ雉丸が……」
 まるで自分は悪くないような言い方。三人を見捨てたのは誰ですか?
 桃は慌てて物陰に隠れた。
 人の気配がした。
 そーっと辺りのようすを探ってみる。
 すると、何やら話し声がこちらに近づいてくる。
「温羅の姐御も人使いが荒いよな、侵入者なんかいるわけねーよ」
「そう言うなよ。船は沈んだが、生きて島まで渡ってきてるかもしれないだろ」
「そんなわけあるか、島の周りは波が高くて、海の底には怪物はわんさかいるんだぜ?」
 会話の内容を聞いていると、どうやら桃たちを探して見回りをしているらしい。
 桃は隠れながら声の主に目を凝らした。
 頭から虎のような耳を生やし、お尻からも黄色と黒の縞模様の尻尾が生えている。それ以外はどこにでもいるオッサン二人組だ。まさしくあれは鬼人族。
 鬼人族の特徴は虎のような耳と尻尾、それ以外は普通の人間と変わらない容姿をしているのだ。
 鬼の一人が何やら見つけたようだ。
「おい、あそこに何かあるぞ?」
「竹みたいだな」
 竹みたいじゃなくて竹です。正確にいうと物干し竿です。つまり見つかってしまいました。
 ぐっと息を呑む桃。
 緊張の糸が張り巡らされる。
 徐々に近づいてくる足音。
 そして、突然の大声。
「会いたかったぜ姉貴!」
 両手を広げて駆け寄ってきたのは猿助だった。
「アホ、大声出すなサル!」
 桃の蹴りが猿助の顔面にヒット。それは蹴るというより踏むだ。
「おい、誰かいるぞ!」
 鬼が声を荒げた。もう完全に見つかってしまった。
 こうなったら出て行くしかない。
 桃は物干し竿を振り回しながら物陰から飛び出した。
「おりゃーッ!」
 剣は剣術、棒は棒術、武器には武術が存在するが、桃の戦いにそんなものはない。
 力任せに物干し竿を振り回しているだけ。でも強い。
 豪快にして華麗。
 爆乳を激しく揺らしながら、優美な白銀の髪をなびかせ、しなやかな脚で地面を蹴り上げる。
 猿助は桃の戦いに見惚れていた。主に揺れる乳とTバックのケツを熱心に見ている。
 デカパイなのに決して垂れていない乳。ぷりぷりで脂が乗った吊り上がったケツ。どちらも甲乙つけがたい。
「どこ見てんだいサル!」
 鬼たちと一緒に猿助も物干し竿でぶん殴られた。
 気絶する鬼たち。
 猿助も殴られたが、打たれ強いのか、ぜんぜんへーき。
「なんでオレのことまで殴るんだよ!」
「はぁ? 身に覚えがないって言うのかい?」
「オレが何したんだよ」
「そーゆーこと言ってると眼ん玉えぐり出して、一生お前の好きなケツとおっぱい見えなくしてやっていいんだよ?」
「はい、ごめんなさい。オレが全面的に悪かったです、はい」
 猿助は急におとなしくなって頭を下げて謝った。威勢はいいが、相手に強く出られると弱いのだ。特に桃は怖いらしい。
 桃が猿助に気を取られていると、気絶していたハズの鬼が何やら通信機を懐から出していた。
「侵入者だ……船着き……ぐげっ!」
 桃の蹴りが這い蹲っていた鬼の顔面にお見舞いされた。
 すぐに通信機を踏み潰して壊したが、もうきっと遅いだろう。
 たちまちサイレンが鳴り響いた。
 桃は猿助の胸倉を掴んだ。
「全部てめぇのせいだからな!」
「オレは何も……」
「アタイが隠れてたのに、バカな声あげて駆け寄ってきたのはどこのどいつだよ!」
「……ごめんなさい」
「わかればいんだよ。ほら、何ぼさっとしてんのさ、さっさと鬼どもをぶっ倒しに行くよ!」
 言いたいことだけ言って、自分の気が済んだらさっさと次の行動。自分勝手だ。
 どうして猿助はこんな桃のお供なんかしているのだろうか?
 猿助は前を走る桃のお尻だけを追っかけていた。