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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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壱之幕_温羅編


「ビビってんじゃないよ野郎ども!」
 ほぼ半裸の爆乳ねーちゃんが大声を張り上げた。
「あっちが?海の魔女?なら、こっちはジパング一の絶世の美女――桃ねーちゃんだっつーの!」
 若侍風に頭の上で、一本に結わいた白銀の髪が風になびく。
 桃は鋭い瞳で鬼ヶ島を睨みつけ、鼻梁の下で艶めかしく誘う桃色の唇で、小生意気な微笑を浮かべた。
 ノースリーブの着物のサイズが合っていないのか、それとも単純に爆乳だからなのか、着物の前は大きく開かれ、そこから覗く褐色の谷間には何でも挟めちゃいそうだ。
 さらにふんどし一丁のケツも、谷間がスゴイ。
 桃のふんどしTバックに目を奪われているのは、悪ガキっぽい顔つきの少年。ツーッと鼻血が流れた。
 キラリーンと桃の眼が光る。
「どこ見てんだいサル!」
「ぶはっ!」
 桃の怒りの鉄拳を顔面にごちそうさまして、サルと呼ばれた少年が荒波の海に……あ、落ちた。
 そう、ここは海の上なのだ。
 小舟に乗っているのは四人……じゃなかった。一人脱落したので三人。
 顔面蒼白でブルブル震えている童顔の少年。いたいけに頑張って、自分の身長よりも大きなオールを使って船を漕いでいる。その少年は子犬のような瞳で、溺れているサルを横目で見ている。
「あのぉ〜、猿助(さるすけ)たんが海に落ちたみたいですけど、助けなくていいんですかぁ?」
 すると拳銃のメンテナンスをしていた眼鏡の青年が優しく答えた。
「大丈夫、ポチは心配しなくていいんだよ」
 青年はポチの頭を静かに撫でながら言葉を続ける。
「……サルはゴキブリ以上に生命力があるから殺しても死なないよ」
 言葉に毒気がある。ポチと猿助に対する扱いに、ぐ〜んと差があるようだ。
 桃もサルのことなんか気にも留めていないようである。
「雉丸(きじまる)、そろそろ一発かましてやりな」
 名前を呼ばれた眼鏡の青年――雉丸は銃の手入れを休めて、ロケットランチャーを肩に担いだ。
「桃さん、もう弾数が一発しかありませんが、本当に撃ちますか?」
「景気づけの一発だよ、ドーンと撃ち込んでやりな」
「承知しました」
 眼鏡の奥で光る切れ長の瞳。
 狙いは鬼ヶ島の断崖絶壁にそびえ立つ難攻不落の要塞――鬼ヶ城。
 荒々しい海に浮かぶ小舟が激しく揺れる。風が強く、今にも転覆してしまいそうだ。
 雉丸の長く伸ばされた後ろ髪が風になびく。それはまるで雉の尾のように美しい。
 狙いが定まった。
 ポチが叫ぶ。
「待ってダメぇ!」
 遅かった。
 ランチャーから発射されたロケット弾が、鬼ヶ城に掲げられたドクロマークの旗を目掛けて飛んだ。
 だが、ロケット弾は鬼ヶ島に近づいた瞬間、なぜか空中で爆発して硝煙の中に消えてしまったのだ。
 それを見た桃の目尻がきつく吊り上がる。
「どういうことだいポチ!」
「だからダメって言ったのにぃ」
「撃つ前に言え、撃つ前に!」
「そんな怒らないでくださいよぉ」
 潤んだ瞳のポチは今にも泣きそうだ。そんな愛らしいポチまったく動じない桃。けれど、そこに雉丸が間に入ってかばう。
「ポチはこんなに良い子なんだから、苛めないでくださいよ……ねぇ、桃さん?」
「雉丸はどうしてポチをそんなにかばうんだい?」
「だって……可愛いじゃないですか?」
 雉丸は静かに微笑んだ。ちょっとその笑い方が妖しい。
 桃はどっと疲れたようにため息を吐き捨てた。
「こんなガキのどこがいいんだか、アタイはイケメンにしか興味ないね。で、どーゆーことかさっさと説明しな」
 促されてポチは慌ててしゃべりはじめる。
「島全体を温羅(うら)の姐御さんが結界で包み込んでるんでしゅ。だからね、外からの攻撃を防いじゃうんだよ」
 温羅とは今から退治に行く海賊の頭だ。近隣の村々では?海の魔女?として大変恐れられているらしい。
 そして、ポチは温羅のところで働かされていた海賊の下っ端だったのだ。で、どーにか海賊団を逃げ出したはいいが、逃げた先で出遭ったしまったのが桃だった。それからというもの、ポチは下僕として桃に飼われ、雑用から船漕ぎまでやらされているのだ。
 温羅海賊団の内部事情に詳しいポチの手引きで、どうにか鬼ヶ島の近くまで来たか、ミサイル攻撃失敗で出鼻をくじかれてしまった。
 しかも、実はポチがまだ話し忘れていたことが――。
「ブハーッ、マジ死ぬかと思った!」
 口から噴水しながら猿助が海の底から這い上がってきた。肩で息を切る猿助は船に乗り込んで濡れた体を震わせた。
「ここの海マジ怖ぇーよ、海の底にでっけえ怪物が棲んでてさ、海藻をオレの体に巻き付けて引きずろうとすんだよ。それでオレはじいちゃんの形見のこのクナイで……クナイがねえっ!」
 さよならじいちゃんの形見、海の底で成仏してください。
 慌てふためく猿助の頭を桃が引っぱたいた。
「ガタガタ言ってんじゃないよサル!」
 さらに追い打ちをかけるように、遠くから飛来してきた燃える石が猿助のおでこに直撃。
「アチーッ!」
 ドボンッと猿助は再び海に落ちた。
 ポチが慌てた。
「ええっと、鬼ヶ島は外から攻撃されるとセキュリティシステムが発動して、反撃してくるですぅ!」
「早く言え!」
 桃はポチの頭をぶっ叩いた。
 すぐに雉丸がポチを抱きしめてかばう。
「こんな可愛い子に暴力を振るわないでくださいよ。それにポチは記憶喪失なんだから、言い忘れたからって責めないでくださいよ」
「記憶喪失になったのは温羅に拾われる前の話だろ!」
 桃は爆乳を揺らして怒った。さっきから怒ってばかりだ。
 すっかりポチは脅えて震えてしまっている。
 そんなポチの頭を撫でて雉丸がなだめる。
「ポチは何も悪くないからね。それに桃さんは怒ってなんかないんだ。今の常態がデフォルトだから、本当に怒ったら俺たち皆殺しだよ」
 話を聞いていた桃がギロリと雉丸を睨んだ。
「何か言ったかい?」
「いいえ、何も」
 雉丸はさらりと受け流した。桃とのやりとりに慣れているらしい。
 でも、桃の眼が怖いです。相手を睨み殺す勢いです。これのどこが怒ってないんでしょうか、十分怒ってるように見えますが?
 小舟の上でそんなやりとりがされている間にも、鬼ヶ島のセキュリティシステムは張り切って頑張っていた。
 次から次へと天から降り注いでくる燃えた石。まるで拳ぐらいの大きさの隕石だ。
 死相を浮かべて猿助が海から這い上がってきた。
「じいちゃんのクナイ見つけたぜ。けどよ、海の底には恐ろしい怪物が……ぐわっ!」
 再び小型隕石が猿助のおでこに直撃。また海に沈んだ。……さよなら。
 そんな猿助のことなんてやっぱり気にも留めないで、桃はポチと雉丸に命じる。
「全速力で船を漕ぎな、雉丸はわかってるね?」
 真剣な眼差しで雉丸はうなずき、口径の大きなリボルバーを構えた。
 雉丸が撃つ銃弾が次々と小型隕石を打ち落とす。
 そして、桃も動き出した。
 小舟をはみ出して置かれていた竹の棒を拾い上げ構える。その竹の長さは女にしては長身である桃の身長を優に超していた。
 ポチが思わず尋ねる。
「姐御さんの武器って竹槍なんですかぁ?」
「竹槍じゃないよ、ウチから持ってきた物干し竿だよ」