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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 再び亀仙人が滝壺に落とされそうになったのを雉丸が制止する。
「ちょっと待ってください桃さん、そのアイテムのことを訊いてからでも遅くないかと」
「それもそうだね。ほら、命拾いしたんだ、さっさとお言い!」
 桃に胸倉を掴まれ持ち上げられている亀仙人は、青ざめた顔で苦しそうに口を開く。
「そ……の前に、温かいお茶をくれんか?」
「てめぇぶっ殺すぞ!」
 桃が本気で怒る寸前だった。それを察知したメンバーは必死になった。
 雉丸がすばやくフォロー。
「殺すのはいつでもできますから!」
 ポチがまん丸の瞳をウルウルさせる。
「お爺たんを苛めちゃ可哀想だよぉ」
 猿助が桃を後ろから羽交い締めにする。
「姉貴! やっぱ好い体してんなぁ……ぎゃ!」
 便乗に失敗した猿助は、桃の肘打ちを喰らって地面に沈んだ。
 最後にかぐやが呟く。
「今度はちゃんと息の根を止めてから滝壺に落としたらー?」
 フォローじゃなかった。
 桃の両手が亀仙人の首を締め上げる。
「成仏しろよクソハゲ!」
「……す……すまん……ワシぐぁっ……わる、悪かった」
「今さら謝っても遅いんだよ!」
「……鈴鹿御前の……居場所を……教えてやる……」
「なに?」
 すーっと桃の手から力が抜け、解放された亀仙人は地面に両手をついて咳き込んだ。
「うげっ……げほっ……うえぇっ……ナイスバディなねーちゃんたちが、川の向こう岸で呼んどったわい」
 臨死体験だった。
 瀕死の亀仙人をいたぶるように桃はつま先で小突いた。
「生かしてやったんだ、さっさとお言いよ!」
「そうせかすな……その前にお茶を……」
 桃にギロっとした眼で睨まれ、亀仙人は言葉を呑み込んで、別の言葉を発する。
「おぬしが持っとる羅針盤はワシが発明したスーパー浦島スペシャル羅針盤(試作品)じゃ」
「で、この羅針盤と鈴鹿が何の関係があるんだい?」
「鈴鹿御前はおそらく特殊な結界の中に隠れておる。そこでそのミラクル羅針盤を使って時空の歪みを探知して、正しい道のりを教えてくれるのじゃ!」
 桃の持っていた羅針盤を猿助が奪い取った。
「そんなにスゴイ羅針盤なんかよ。つーか、まさかこれをわざわざ届けに来てくれたのか?」
「そうじゃ、京の都でおぬしらが鈴鹿御前退治に向かったと聞いて追ってきたのじゃ」
 だったらスゴイ功労者じゃないですか!
 それを殴る蹴る滝壺に落とす。恩を仇で返しまくり。
 亀仙人が京の都にやって来たのは、おそらく桃たちを追ってきてのことだろう。
 ということは――。
 少し声を弾ませながらかぐやが亀仙人に尋ねる。
「かぐやが乗ってたあれがなんだかわかったの!?」
 それはかぐやの記憶を探す大事な手がかりだった。
「あの乗り物は……わからんから村に放置してきたわ」
 あっさり答えた亀仙人にかぐやのグーパンチ!
「くたばれ!」
「ぐはっ!」
 殴られた亀仙人は後ずさりをして慌てた。
「ま、待て、今まで鬼人たちの技術も多く見てきたワシじゃが、あの乗り物に使われておる技術はワシにもよくわからんのじゃ。つまり、あの乗り物は鬼人の技術より、もーっと、もーっともっとスゴイ技術が使われておるのじゃ!」
 つまりそれはどういうことか?
 一同の視線はかぐやに集まった。
 このうさ耳の少女の正体は?
 真面目モードな空気が流れている中、桃はゾワゾワっとする悪寒を感じて振り返った。すると亀仙人に尻をなでなでされていた。
「超スゴイ羅針盤を届けてやった礼じゃ、ケツくらい触らせい」
「あの世で女のケツでも追っかけてな!」
 桃の回し蹴りが炸裂!
 今度こそさよなら亀仙人。
「あ〜れ〜!」
 グルグル渦巻く滝壺に亀仙人は消えたのだった。
 成仏しろよ!

 今は亡き亀仙人の形見(?)の羅針盤を使い、その針が指し示す方角へ歩みを進めた。
 すると、人気のない舗装された一本の道に出た。地図や人間の知らない行路だ。きっとこの先に鈴鹿のアジトがあるに違いない。
 はやる気持ちを押さえて足を進めていると、やがて柏木原の彼方に絢爛豪華な御殿が姿を現した。
 壮麗な御殿の敷地に足を踏み入れた桃たちは目を丸くした。
 あんな鬱蒼とした山にこんな御殿があったとは驚きだ。
 堀に掛かる紅い反り橋の前で、トラ耳の人影が桃たちを待ち受けていた。
 影は三人。
 赤いふんどしの鬼が声を荒げた。
「貴様、いつかの凶暴女じゃねーか!」
 凶暴女=桃
「あんた誰だい?」
 桃はすっかり忘却していた。
 雉丸が桃に耳打ちをする。
「温羅のところであった奇人変態フルチンジャーですよ」
 あれ、そんな名前だったっけ?
 ポチがすかさず訂正。
「違うよぉ、フルチン戦隊赤フンジャーだよ」
 これが正解だっただろうか?
 猿助とかぐやは初対面なので正解を知らない。二人はコソコソ話をした。
「フル○ンだってよ、変態だな変態」
「ねー、フルチ○なんて恥ずかしくないのかしら」
「つーか、今はフル○ンじゃなくて横○ンだけどな」
 避難の眼差しで見られた赤フンの鬼が暴れ出した。
「フルチンじゃねー! おらは鬼道戦隊鬼レンジャーのリーダー、赤フンの鬼レッドだ!」
 さらに横にいた青フンの鬼が一歩前に出た。
「そして、俺が鬼レンジャーのイケメン担当、青フンの鬼ブルーだ!」
 クールに鬼ブルーは前髪を掻き上げた。見るからにナルシストだ。
 続いて最後に残った黄色いふんどしの巨漢が金棒を振り回しながら前に出た。
「おいどんは力自慢の大食漢、黄フンの鬼イエローじゃ!」
 三人揃って鬼道戦隊鬼レンジャーと言いたいところだが、鬼レッドが頭を掻きながらすまなそうに口を開く。
「ちなみに鬼グリーンは家庭の事情でバイトが忙しくて、鬼ブラックは風邪で寝込んで病欠だ。メンバーが揃わんで悪いのお」
 だからどうしたって話だ。
 桃は背中に担いでいた物干し竿を抜いて、鬼レンジャーたちをタコ殴り。
 ドガ、ドガ、ドガッ!
 一瞬にして鬼レンジャーは殲滅された。
 虫の息で地面に這い蹲る鬼レッドが恨めしそうな眼で桃に手を伸ばす。
「卑怯者め……まだ我らは決めポーズもして……」
 バタッ!
 と、鬼レッドは力尽きた。
 残る鬼ブルーは虫の息にもかかわらず、猿助に顔面を殴る蹴るされて、四谷怪談のお岩さん常態。
 巨漢が自慢の鬼イエローは、桃にやられて地面に倒れたところで、かぐやに股間を蹴り連打。
 鬼ブルーと鬼イエローも無惨に力尽きた。
 猿助とかぐやは背中を合わせて息を吐いた。
「ふーっ、なかなか手強い野郎だったぜ!」
「まあかぐやの手に掛かれば雑魚だけど!」
 まるで二人で倒したみたいな言い草だった。
 そんな二人を置いて桃はさっさと歩き出していた。
「てめぇら、さっさと行くよ!」
 無駄な手間を取らせてしまったが、鬼レンジャーが守っていた反り橋を渡ることにした。
 堀池で錦鯉がぴょんと跳ねた。
 それを見た猿助が一言。
「うまそう」
 すぐに猿助の後頭部に桃の平手打ちが飛んできた。
「バカ言ってんじゃないよ!」
 反り橋を渡り切ると、そこには金銀で作られた塀と門があり、その奥に見えるは金銀七宝を散りばめた荘厳な屋敷。
 この贅沢な御殿はすべて盗んだ財宝で造られているのだろうか?