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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 が、桃に人情なんてものがあるのだろうか?
 桃には効かないようすの精神攻撃も、雉丸の胸にはグサグサきたようだ。
「ポチ……大丈夫だよ、かぐやは決して売ったりしないからね。ですよね、桃さん?」
「まあ雉丸が言うなら仕方ないねぇ。その代わり、雑用から何から体を張って尽くすんだよ?」
 意外にもあっさり。
 桃の視線がかぐやに向けられた。
「そんなこと誰が……ぐあっ!」
 物干し竿がかぐやの首を絞めた。
「わかりました、ごめんなさい……絶対復讐して……ぐわっ!」
 かぐやは口から泡を吐いて気絶した。
 金三〇〇枚を積んだというのに、晴明は少しご立腹だった。
「この妖魔を売ってくれないなんてヒドイじゃないか、詐欺だよ詐欺!」
 桃がキッと晴明を睨む。
「まだ金をもらったわけじゃなんだ、グダグダ言ってんじゃないよ!」
「売れったら売れよ!」
「うるさいクソガキだねぇ」
「僕はクソでもガキでもない。こう見えても二二歳なんだぞ!」
 やっぱりロリコンだ!
 一同は唖然としたまま沈黙。そのまま桃の視線は雉丸に向けられた。
「たしかあんたも二二だったねぇ?」
 訊かれた質問を雉丸はさらりと流した。
「そんなことよりも、俺たちが鈴鹿御前を退治するということでかぐやをあきらめて欲しい」
 晴明はう〜んと唸って腕を組んだ。
 かぐやをあきらめるのは不本意だが、人々を苦しめる女盗賊を退治できるなら。それに鈴鹿御前は帝の貢ぎ物にも手を出している。京の都の陰陽師としては、帝に忠義を払わなければならないだろう。
「いいだろう。退治できるものならして来いよ」
 晴明の言いぐさに桃は自信満々の笑みで答えた。
「おう、やってやるよ」
 しかも、桃はこんな注文までつけた。
「見事退治した暁には当然、報酬をもらえるんだろうね?」
「心配しなくても鈴鹿御前は賞金首だよ。朝廷から報酬が出る」
 そうと決まれば出発だ!
「野郎ども行くよ!」
 桃は下僕を連れて行こうとしたのだが、その中の一匹が動こうとしない。猿助はずーっと今まで鏡を覗いていた。
「ちょっと待って、今いいとこなんだ」
 その場を動こうとしない猿助の首根っこを桃が掴んだ。
「さっさと行くよ!」
「今から風呂に入るとこ……ふがっ!」
 ゴン!
 猿助の顔面が鏡ごと床に強打された。もちろんやったのは桃だ。
 ゴナゴナになった鏡にはもう何も映っていない。
 桃は鼻血ブーの猿助と気絶しているかぐやを引きずって部屋を後にした。すぐに雉丸も何事もなかったように後を追う。
 最後にポチがペコリと頭を下げて部屋を後にした。

 ――桃たちが京の都を出立して三日三晩の刻が流れた。
「クソッタレ!」
 桃の罵声が山々に木霊した。
 鈴鹿のアジトがまったく見つからない。手がかりすら何もつかめない状況だった。
 舗装されている参道から外れれば、そこは険しい山道。山の中を歩き続けているメンバーも疲労の色が隠せない。
 食料も底を付きそうだった。
 猿助が腹をさすった。
「腹減ったーっ。そろそろ京の都に戻って食べもん調達しようぜー」
 ポチとかぐやも身を寄せてぐったりしている。
「ボクもおなかすいたよぉ」
「かぐや歩けなぁ〜い」
 周りの状況を見かねた雉丸が桃に取り合おうとしたが、その前に桃が先に口を開いてしまった。
「てめぇら、グダグダ言ってんじゃないよ。絶対、京には戻らないからないよ。今戻ったら安倍の野郎に笑われるだけさ!」
 プライドの問題だった。そのプライドを自ら曲げるなんてことを桃がするハズがない。
 しかし、食料が残り少ないのも事実。
 カエルの合唱のように三匹のガキが『おなかすいた』と喚き散らす。
 桃が三匹を睨みつけた。
 三匹がビクッと身をすくめて口を閉じたときは遅かった。
 桃が猿助の胸倉を掴みんだ。
「てめぇで魚でも捕ってこい!」
 投げた!
「ぎゃーっ!」
 そのまま猿助は崖の下に転落して滝壺の中に呑まれてしまった。
 惨状を目の当たりにした残り二匹、魔の手が伸びてくるのも時間の問題だった。
 桃がかぐやの胸倉を掴んだ。
「てめぇも逝って来い!」
 やっぱり投げた!
「クソババア、覚えてろよ!」
 捨て台詞を吐いて、やっぱり滝壺に呑み込まれた。
 最後に残ったポチは仔犬のように体を震わせている。
「ご、ごめんなさぁい。ボク泳げないから投げないでよぉ」
 すぐに雉丸がポチを抱き寄せた。
「ちゃんと謝れば桃さんだって許してくれますよね? だって桃さんはジパング一の美人で寛大な心の持ち主ですから、ね?」
「そうさ、アタイはジパング一の絶世の美女。心の広さだって誰にも負けやしないよ」
 どうやら難を逃れたようすのポチ。瞳をキラキラさせている。
「ありがとぉ姐御さん。ボクこれからもいい子でいるね!」
 桃はポンポンと優しくポチの頭を叩いた。
 犠牲になった二匹は未だ滝壺から上がってこない。溺れ死んだ可能性も高いが、あの二匹は結構しぶとそうな感じがある。特に猿助はゴキブリよりもしぶとい。
 桃は滝壺の下をのぞき込んで祈りを捧げた。
 その祈りは無事を祈るでもなく、黙祷するでもなかった。
「あの二匹を捧げるから、どうか鈴鹿の居場所を教えておくれ」
 生け贄だった。
 すると、地獄の神が祈りを聞き届けたのか、滝壺がピカーンと光輝いた。
 次の瞬間、水しぶきを上げて滝壺の中から珍獣がっ!
「呼ばれて飛び出てハメハメハー!」
 ビキニ姿のハゲ爺が瀕死の猿助とかぐやを抱えて地面に降り立った――亀仙人だった。
 その姿を確認した瞬間、桃は亀仙人を滝壺に蹴落としていた。
「逝って来い!」
「ひぎゃーっ!」
 さよなら亀仙人、成仏しろよ!
 滝壺に呑み込まれた亀仙人だったか、次の瞬間には滝壺の中から飛び上がってきた。なんと亀仙人の背負っている甲羅からジェット噴射しているではないか!?
 再び桃の前に降り立った亀仙人の第一声は――。
「ワシを誰だと思ってお――」
「知ってるわ、クソハゲだろがっ!」
 またハゲ仙人は滝壺に蹴落とされた。
 しかし、三度滝壺から飛び上がって、蹴落とされた。
 四度、蹴り、五度、蹴り、六度、蹴り……。
 エンドレスも数えるのめんどくさくなったころ、全身ボロボロでヨボヨボの亀仙人は陸地に上げってついに力尽きた。
「ワシは……もう駄目じゃ……最期にワシの一生の頼みを聞いて……」
 桃は亀仙人を踏んづけながら望みを訊いた。
「なんだ言ってみな?」
「最期に……おぬしと一夜を過ごし……」
「逝って来い!」
「ぎゃ!」
 再びエロ仙人は滝壺に落ちた。もう成仏してしまったのか、上がってくるようすはなかった。
 亀仙人が最期にいた場所でポチが何かを見つけた。
「姐御さん、変な物が落ちてましゅよぉ?」
 そう言いながらソレは桃に手渡された。
「なんだいこれ?」
 それはまるで羅針盤のような形をしていたが、それよりも複雑な感じがする。
 いったいこのアイテムは?
 崖の下から老人の手が現れた。
「それは……ワシが……ゲホゲホ……」
 やっとの思いで崖を登ってきた亀仙人だった。その胸倉を桃が掴み、そのまま引き上げた。
「てめぇ、まだ生きてたのかい!」