花束を
「あの花束が萎れないうちに家に持って帰ること。あれは海に流すもんじゃない。」
「・・うん・・・・」
「そろそろ、あたしも行かなくちゃ。じゃあ、しっかりするんだよっっ。」
私の見ている前で、その猫は忽然と消えた。しばらく呆然としていたが、真夜中の港は風が冷たくて、のろのろと動き出して、クルマに入った。今まで見えていたはずの大きな港とフェリーらしき船影は忽然と消えていて、目の前にあるのは、小さな突堤があるだけの漁港だった。今のことが夢でない証拠に、助手席には綺麗な花束があった。もう一度、私は泣いて、それから家路に向かって、クルマを走らせた。
また、新しい猫と暮らすことにしよう。今度は、二十年後に、先代猫がお迎えに来てくれる。だから、今度は、眠れなくなるなんてことはないだろう。