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命の旅

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それから砂浜、屋上と病室と多くの場所で話をした。旅の話は常識では考えられないことばかりだった。銃で撃たれた、どっかの研究所へ送られそうになった、海を流れて島を渡っているなど作り話にしてはリアルで、おもしろいと思ってか菜穂子は喜んで聞いていた。この手の話をするのは多いためグロテスクなども考慮して話している。

菜穂子と合って一週間の時が流れた。ウェイクはその間は口にしたのは水のみ、寝るとこは受付の前のベンチだったが、なぜか医者も看護師も声をかけなかった。
最初は外へ行くことが多かった。砂浜を二人で話ながら歩き、屋上で風にあたる。だんだん菜穂子の体調は悪くなっていった。今では病室で寝たままだ。菜穂子は大丈夫と力なく笑っていたが、ウェイクにはわかっていた。それは自分が多く見て、感じて、経験してきた死の予感だった。しかしウェイクは気にしていない。ただ話かけるだけ。なぜなら彼は死や命の価値がどんどん薄れ今では何も感じないからだ。



 ウェイクさんとの話は楽しい。作り話がほとんどだけど、嬉しかった。私の周りには話し相手など居ない。親なんてここに来ない。おかげで最近は、新しい世界に触れたような気がして、ついいつもより頻繁に外へ出ていっていまった。そのせいで今はベッドから出ることができない。だけどウェイクさんは来てくれる。もっと話をしたかったけど……もう少しもう少しだけだから……。



 出会ってから九日目がやってきた。俺はいつものように病室へ居る。今では最初の元気そうに見えた菜穂子はいない、今はベッドで窓の外を何処か遠くを眺めていた。
「この病院、空気は重いし、静かすぎると思はない?」
「そうだね」
 受付前や廊下には医者など以外見たことがない。
「……ここは必ず死ぬ人が来る病院なの」
「そうなんだ、君も何処か悪いの?」
 始めから気付いていた、この病院から感じる死の感じ、そして菜穂子からもかすかにすることを。
「不治の病っていうの、急速に中が衰えてるんだって、なんでなったのかわからない。わかってから数年は隔離されて閉じ込められていた。血液を取られて、爪とか髪といろいろとまるでモルモット扱い……」
菜穂子の苦しそうな表情を眺めていた。特に何も感じない。悲しみも怒りも憐れみも……ただ思うことは
――ああ、死ぬのか。
 ただそれだけだ。
「ここに移されたのは一年前。感染能力の判明に採取するものも、全部終わったんでしょうね」
「……」
「親なんて一度もここに来ない……」
「…………」
「死にたく……ない、もっと自由に……何も、できてない。こんな意味の、ない終わりなんて、嫌」
溢れる感情を制御できないで涙を流す菜穂子。何も言わず黙って聞き、見ていたウェイクは口を開いた。
「命はいつでも理不尽だよ、生きたい人もいれば死にたい人もいる。突然なくなることも、ロウソクのようにだんだんとなくなりもする」
菜穂子はただじっとしている。声なんて届いていないのかもしれない。
「だから命に価値はない……意味だけしかないんだよ。誰かの記憶、物に存在を残すことに意味があるんだよ。俺は忘れないだから……」
「……」
「……だから意味はあったよ。どうせ俺は不死の病みたいなもんだし、これからどれくらい生きるかわからない。だから他の人なんかよりよっぽど意味があるかもな、じゃ俺は行くよ」
 菜穂子の頬を伝う涙を指で掬う。長い眠りについた菜穂子に手を振り病室を後にした。
「じゃ次の場所でもいくか」
そう呟きながら崖から海に飛び込んだ。



「あれ? なんかあるよ、お兄ちゃん」
「え? ひ、人? 救急車を――」
次の場所へと打ち上げられ、出会いがあり、死を刻んでいく旅がまた始まる。
作品名:命の旅 作家名:ざくざく