小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

命の旅

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
周りは瓦礫に血痕、死体がいくつもある。まだ真新しい戦争の傷跡は、三分の二ほど傾いた太陽に照らされていた。そこではまだ、ところどころで銃声や悲鳴、泣き声が聞こえるそんな場所。そこの住民は誰もが表情を絶望、恐怖、緊張によって染まっていた。
そんな中で平然とした表情に、何事もないような態度をしている少年が居る。十五、六歳ほどの少年は長い年月を得て古びたような布に身を包んでいて、肩から提げているカバンから一枚の紙を取り出していた。
「ここはどこら辺だろう?」
 広げた世界地図を見て頭をボリボリと掻いている。
「誰かに聞くしかないかな」
 周りをキョロキョロと見渡し人を探す。
「お!」
爆弾か砲弾か、何かの爆発によって大半を吹き飛ばされている家の扉から人影が見えている。
「すいませーん、ちょっと……」
 人影へ近づき、その人の肩に手を置くと抵抗なく崩れ落ちた。
「あちゃー死んでるかー」
 倒した人が右半身を大きく失っているのを一瞥しただけで特に気にせず、場所を聞けないことに困ったようだ。
「えーと他には」
少年はまた人を探し始め、今度は動いている人が目に入った。走って近づいていく。
「ちょっといいですかー」
 後ろから声をかけられた人は振向き銃を構えた。ヘルメットにアサルトライフルと簡素な造りの服装に、弾薬などを所持していることから軍人であることがわかる。
「止まれ!両手をあげて動くな!」
 軍人が口から発した言葉はロシア語、少年が話した言葉は英語だった。
――ここはロシア語の区域だったのか
 大人しく手を上げた。
「すいません、ここがどこか聞きたいだけなんですけど」
今度はロシア語で話して手にある地図を振りアピールするが他国の言葉、もしかしたら敵対国の言葉を話して、こんな戦争中の時期にこんな場所で聞くことではないことは明らかだ。銃を下ろすどころか軍人はより警戒心を強くしてしまった。
「いや、ほんとにどこか聞きたいだけなんですかどー」
 少年が少し動くと、ターンという銃声とともに少年の額に弾丸がめり込みその場に崩れ落ちる。
銃を向けられても表情ひとつ変えない、変な格好の怪しい人物だ。動けばなにかすると考えられても当然のことだ。
 軍人は少年を撃ったことにより緊張の糸が切れるようにため息をついている。
「いたいなー、いきなり撃たなくても……」
「な!」
額に空いた穴から止めどなく血が出ている少年が平然と立ち上がる。軍人は動揺しながらも構えなおした銃からフルオートによる弾丸の雨が降らされた。
「だから、いたいって言ってるだろー」
「バ、バケモノ」
カチカチカチ、マガジンの弾がなくなっても引き金を引く軍人の表情は恐怖によって染まっていた。
「あーあー変えの服とかないのに」
弾丸と自分の血によって、穴だらけの赤くなったボロ布と服を見ながら軍人に近づく。
「ほら、弾もなくなったし場所を教えてよ」
「く……来るな」
「あれ顔が青いけど大丈夫?」
さらに近付き地図を突きだす血まみれの少年と弾切れの銃を構え表情が恐怖で歪んでいる軍人。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
 限界を迎えた軍人は錯乱して逃げ出した。
「え? ちょっと……ん? え!」
逃げ出した軍人を追おうとすると手に握られている地図が、穴が空き破れて風に揺られているのを見つめて止まっていた。
「これ……一枚しかないのに……あ! あの人持って……」
辺りにはさっきの軍人は見る影もなかった。それを確認した少年は途方にくれるように遠くを見ていた。
「……とりあえず海に近い方角を聞こう」
ため息とともにまた辺りを見渡しながら人を探して歩き始めた。

 

「その娘を渡しな、大人しく従えば命は取らないぜ」
少年があった軍人とは持っている銃以外、全て違う男は娘を守るように背に隠し家の隅に居る母親に話しかけている。
「む、娘はまだ十二歳です。な、何をするつもりですか?」
「さーな、いいからさっさとこっちに渡しな」
男は嫌らしく口元を歪め、視線は震えている母親の後ろで小さくなっている少女に向けている。
「どうか、娘だけ……」
 助けをこう言葉は一発の弾丸によって止められた。胸を撃たれ母親が前に倒れる。
「大人しく従っとけば――もっと楽に死ねたのになーま、これはこれで楽しみのひとつなんだがな。ヒャハハハ」
「お、おかあさん? 死んじゃ、やだよ……ねぇ」
 男は倒れて血だまりを広げている母親と泣きながら母親の体を揺する娘を見て笑っていた。
「ぐ、ごほ……ま……り…………」
母親は血を吐きながら最後の言葉をつむごうとしていた。ターン、男が母親の頭を撃ちとどめをさした。
「お、おかさーん、ねぇ……お……があざーん」
動かなくなり人から物に変わってしまった母親を揺すり、泣き続ける少女に男は近づいていく。
「おかあさんが死んで悲しいのか? ヒャハハハハ」
「ひぐ、うぇ、う……っあ……」
母親にすがり付く少女のブロンドの長い髪を掴み持ち上げる。さらに母親の死体に弾丸を撃ち込むのを見せつける。
「さてこいつをどうするか、どっかに売りさばくのがいいか? 顔つきに、髪に瞳の色――これは高くいけるかもなー回収の時間まで……まだあるな」
「――――きゃっ」
男は母親のありさまを見せつけられ声も出せないほどに泣きじゃくるっている少女を外へ投げる。
「なに一応商品になるんだ、殺しはしない。もしも傷ものになってもいろいろ手はある……さぁ鬼ごっこだ。ヒャハハハハハ」
 動かない少女の足元に弾丸を撃ち、強制的に動かそうとする。



「なんでだ?」
先ほどから人を探していた少年はまだ方角、場所を聞けずにさまよっていた。人を見かけて話しかけたり、近づいたりしたが少年を見ると皆逃げ出してしまうのだった。
「何も逃げなくてもさー」
 いじけるようにうつむくと足元に鏡の大きな破片があり、そこに映る自分を見つめる。
「あーこれじゃ逃げ出すか」
顔は血で真っ赤になっていて、服も見れば大きな赤いシミがあり返り血にも大けがしているようにも見える。関わって良いことが無いのは明らかだ。特にここでは皆自分のことで精一杯だろう。
「これじゃあな……」
着ているボロ布でゴシゴシと顔を拭くが、乾きかけの血は落ちにくく赤が濁った色になっただけだった。
「水は、ないよな……ん?」
 これからのことを考えていると荒い息と足音が聞こえてきた。
「ハァハァハァ――――」
 涙の跡が目立つ少女は家の上部がなくなっている家の隅に背中を預けて、その場にへたり込んだ。母親のことを思い出したのか目に涙がたまる。
「大丈夫?」
「っ――」
 少女は突然真上からの声に驚き、小さく丸くなり震えだした。
「いや、怪しい人じゃないよ……こんな恰好だけどさ」
 無害を示そうとするが怪しいことにはかわりない。少女はゆっくりと顔を上げ少年を見た。怪しい少年と追ってくる男では恐怖の対象の差が激しいのか、少しほっとしたように胸を撫で下ろす。
「えっと、大丈夫?」
オロオロしている少年に何か語ろうと口を開いたが、少女の耳に家の入口からの足音がとどき震えを強くさせた。
「鬼ごっこは終わりにするか? おいおい、なんかおまけが増えてるじゃねーか」
作品名:命の旅 作家名:ざくざく